新国立劇場オペラ『オテロ』 撮影:三枝近志 提供:新国立劇場 新国立劇場オペラ『オテロ』 撮影:三枝近志 提供:新国立劇場

『オテロ』は圧倒的な作品だ。素晴らしい演奏で接すると、あっという間に2時間余が過ぎ去る。ドラマティックな音楽に吹き飛ばされ、椅子の背にはりついたようになって、呆然としているうちに公演が終わった、そんな経験をさせてくれるオペラはめったにない。『オテロ』は間違いなく、その希少な名作のひとつである。

新国立劇場オペラ『オテロ』チケット情報

「オペラ王」とも呼ばれるイタリア・オペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ(1813ー1901年)は、本作で、彼がめざした音楽とドラマの一体化をきわめた。過去も現在も『オテロ』に名演が目白押しなのは、作品が優れているからに他ならない。

原作はシェイクスピアの有名な戯曲『オセロー』。ヴェルディにとってシェイクスピアは「師」だった。彼はシェイクスピアの描いた人間の真実を、人間の普遍的な感情を、心の光と闇をえぐりたいと望んだ。シェイクスピアはヴェルディの神話だった。ほぼ半世紀にわたるオペラ作曲家のキャリアの頂点、74歳!にして書き上げた『オテロ』は、彼が本懐を遂げた作品である。輝かしくも雄弁な音楽で一気呵成に描かれる、英雄の愛と栄光と没落。切なく、愚かで、でもだからこそ愛すべき人間という存在。ヴェルディの音楽はそこに迫り、私たちの胸を打つ。人間とはなにか、という究極の問いとともに。

強靭な声と内面的な感情表現が要求されるオペラだけに、キャスティングは簡単ではない。だが今回の新国立劇場公演『オテロ』のキャストはとびきりだ。オテロを歌うカルロ・ヴェントレは、近年本作で絶賛を博しているイタリアのドラマティック・テノール。「服が合うように、オテロ役は今の自分にぴったり」だと抱負を語る。愛妻デスデモナを歌うセレーナ・ファルノッキアは、イタリアが誇るリリックなソプラノで、品格のある声と演技が魅力。ヤーゴ役のウラディーミル・ストヤノフは、世界中の歌劇場でヴェルディのドラマティックなバリトン役にひっぱりだこのスター歌手だ。スタイリッシュな声と劇的な表現力で、説得力のある演唱を繰り広げる。彼らを束ねる指揮は、これもウィーンをはじめ世界中の歌劇場でイタリア・オペラの大作を任されているイタリアの名匠パオロ・カリニャーニ。まさに「役者は揃った!」と言いたくなる豪華な顔ぶれだ。

マリオ・マルトーネによる演出は、舞台をヴェネツィアに設定し、50トン!の水を使ってヴェネツィアの運河を再現。迷宮のような街並みとオテロの心の迷宮が重なり合う。人物たちの感情を映し出す「水」の扱いは秀逸で、「愛」と「死」の舞台となる寝室の場面も美しい。新国立劇場が誇る名プロダクションである。

4月9日(日)から22日(土)まで、東京・ 新国立劇場 オペラパレスにて。

文:加藤浩子

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