何しろヒロインのりりこは全身整形によって美貌と人気を手に入れたトップモデルで、肉体の崩壊とともに頂点の座から転落していく設定。しかも過激な濡れ場やヌードシーンもある。それだけで他の女優は尻込みするだろうが、製作会見で「どこまで〝本物〟に近づけるかの勝負」と言い放った沢尻は彼女たちとは意識のレベルが全然違う。

「みんなと映画を撮れるのが嬉しい」と目を潤ませていたのも印象的で、撮影現場ではまさに水を得た魚のようにイキイキとしているように見えた。

それこそ長回しのシーンもリハから全力全開。かと思えば、蜷川の演出で表情を微妙に変えたり、芝居にささやかな動きを加えたり、その集中力と表現力の豊かさ、細やかさには目をみはる。ここまで全身全霊で、その役になりきる人はもあまり見たことがない。

もちろんそれらの結晶は、完成した映画に究極の形で息づいていた。過激なあのシーンもすべて手加減なく映し出される。それこそりりこが絶望の中で「あんたたちに分かってたまるか!」とキレるシーンは、沢尻自身の心の叫びにも聞こえてすごい迫力だ。そのとき確信した。沢尻は劇中のりりこと同じように、ライトを浴びたり、カメラを向けられることで輝きを増す本物の女優なのだと。
さあ、息を吹き返した彼女はどこへ向かうのか? 沢尻エリカの第2章はまだ始まったばかりだ。

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沢尻エリカの好きなところ&嫌いなところは?[ http://ure.pia.co.jp/articles/-/7331 ]

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。