アイキューブド研究所の近藤哲二郎社長

1996年に登場して世界的にヒットしたソニーの平面ブラウン管テレビ「WEGA」の心臓部にあたるデジタル画像処理技術「DRC(Digital Reality Creation)」の生みの親である近藤哲二郎氏が2009年に立ち上げたアイキューブド研究所は3月29日、新たな映像クリエーション技術「I3C(Integrated Intelligent Interaction Creation)」の技術発表会を開催した。鴻海精密工業など海外メーカーからオファーがあるという注目の映像処理技術だ。

アイキューブド研究所の映像技術が世界を驚かせたのが、11年5月に発表した「ICC(Integrated Cognitive Creation:統合脳内クリエーション)技術」のデモ映像だ。

画面中央のサルにピントが合い、背景や手前の枝葉はぼける通常のテレビ映像に対して、ICC技術を使った映像は、サルと背景、手前の枝葉のいずれにもピントが合っているのだ。視線を映像のどの場所に移しても、対象物がくっきりと見え、しかも、それぞれの距離の違いや奥行きが認識できる。

人間の目は、手前であれ奥であれ、目を動かした瞬間にピントが合う。対して、カメラで撮影した映像はフォーカスを当てた部分だけがはっきりして、周辺をぼかすことで距離感を出している。しかし近藤社長にいわせれば、それは「自然な映像ではない」。

ICC技術の映像は、自然界で人間が見ている光景と同じなので、4Kや8Kによる大画面化が進んでも、人間の脳に負荷がかからず、目の疲れも抑えられる技術として注目されているという。

その後、13年2月には、プロジェクター向けの新しい映像空間を描く「ISVC(Intelligent Spectacle Vision Creation)」技術を発表。山の稜線などに表れる低周波の検出処理を高めるなどして、風景に自分が取り込まれる没入感が得られる。15年3月には、風景と自分の距離感や関係が認知できる「ICSC(Interactive-Cast Symbiosis Creation)」技術を完成させた。

今回発表した「I3C」技術は、過去に発表した3つの映像処理技術を包含する新映像信号処理クリエーション技術となる。仕様などの詳細は非公開だが、近藤社長は、I3C技術のキーワードに「潤沢な光空間」を掲げる。単なる輝度やコントラストの高さや低さではなく、アプローチの手法が根底から異なる技術で、人間の脳が記憶する「光の空間の違い」を利用しているようだ。

近藤社長は「普段見る富士山と、真冬の寒い、澄み切った空気の晴れた日に見る富士山では、印象や感動がまったっく違う。その違いを表現できる」と語る。

実際のデモでは、I3C処理をした100nitの明るさの56型モニタと、245nitの明るさの55型4Kテレビを並べて、それぞれに4Kビデオカメラと映画、4Kブルーレイソフト、写真の映像を出力して比較した。いずれも輝度が低いはずのI3C処理した映像のほうが、潤沢な光の空間を感じることができた。

簡単にいえば、100本のローソクと245本のローソクの明るさでは、明らかに後者の方が明るいはずなのに、見た目の映像から受ける印象は100本のローソクの明るさの方が明るく感じる技術なのだ。写真の比較デモも披露。I3C技術を使用すると、波際の粒の立体感や海の深さの違いを精細に再現しながらも、遠くにある富士山をクリアに映すことができる。

「カメラで撮影した映像しか見られない今の状況は、見る人にとって受身でしかない」と言い切る近藤社長。「I3C技術は、そういう競争とはまったく違う。フォーカスや映像処理される前の、カメラの前に人間が立ったときに見える光景と同じだ。見る人が、自由に能動的に光景を見ることができる光クリエーション技術だ」。(BCN・細田 立圭志)

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