「おんな城主 直虎」柴咲コウ

 ついに城主・井伊直虎(柴咲コウ)が誕生した「おんな城主 直虎」。放送開始から3カ月が経過し、ドラマの全体像が少しずつ見えてきた。そこには、これまでとは一味違う戦国時代を描こうとする意欲がうかがえる。

 一般的に戦国時代といえば、群雄割拠、下克上の世を武将たちが勝ち抜いていく国盗り合戦、立身出世物語のイメージが強いだろう。だが本作の主役となる井伊家は、大大名・今川家に従う小さな領主の上に、家を継ぐ男子もほぼいないという危機的状況にある。世に打って出られる状態ではない。

 戦国物の定石ともいえる群雄割拠の物語を外して本作が描くのは、今川家の圧力の下で生き抜こうとする井伊家の人々の姿。そしてもう一つは、直虎と領民である百姓たちとの関係である。出家して次郎法師を名乗っていたころから直虎は、托鉢(たくはつ)をしたり、農作業を手伝ったり、百姓たちと日常的に触れ合う場面が見られた。大大名では難しい、庶民に近い低い目線で戦国の世を描いているのが、この作品の特徴の一つだ。

 現代に例えるなら、今川義元や織田信長といった天下を争う大大名が社会を動かす巨大企業の社長だとすれば、直虎はその下で働く課長、もしくは中小零細企業の社長といったところだろうか。

 第13回「城主はつらいよ」では、困窮する百姓たちに懇願され、借金を棒引きにする徳政令の実施を約束した直虎が、徳政令を出せば莫大な借金を抱える井伊家が潰れてしまうことを知って苦悩する。百姓とお家の事情の板挟みになった直虎は、思案を巡らすが…。

 土地に密着した小領主ならではのドラマであると同時に、問題の解決に尽力する直虎の姿は、現代にも通じるリーダー像として見応えがあった。その秀逸な展開にうならされるが、この点に関しては、当サイトのインタビューに掲載されている脚本家・森下佳子の次の言葉を引用しておきたい。

 「今の世の中、選択肢がAかBしかないというふうに追い詰められることがとても多いです。でも彼女(=直虎)には『AもBも納得できなかったら、CかDを探せばいい』という発想があったような気がします」

 この言葉通り、前述の徳政令問題でも直虎は型破りな解決策をひねり出す。今川家や領民たちから持ち込まれる難問に対して、毎回、知恵を絞ってCやDの答えを導き出す姿は痛快だ。

 また、直虎が直面する問題に、徳政令や検地といった当時の制度や文化を巧みに取り入れていることにも注目したい。そのあたりからも、今までとは異なる視点から戦国時代を描こうとする意欲が伝わってくる。

 小領主としての直虎の生きざま、当時の制度や文化など、一味違った視点から戦国時代を見つめる本作。直虎が城主の座に就いた第12回以降は、新たな人物も登場してきた。中でも、直虎を経済面で支えていく商人、瀬戸方久(ムロツヨシ)の存在は、領地運営に関してより掘り下げた展開になることを予感させる。

 さらに、対立する直虎と小野政次(高橋一生)の関係、盗賊・龍雲丸(柳楽優弥)をはじめ、今後登場するキャラクターたちの活躍も気になるところ。戦国ドラマの新境地開拓を期待して、おんな城主・直虎の活躍を見守っていきたい。(井上健一)