小野政次役の高橋一生

 虎松(寺田心)の後見の座を巡り、直虎(柴咲コウ)と激しく対立してきた小野政次。だが、井伊家乗っ取りを画策しているかに見えた行動の裏には、直虎に対する幼なじみとしての思いが秘められていた。そして、その真意を知った直虎。新たな局面を迎えた2人の関係は、今後どうなっていくのか。政次役の高橋一生が、転機となった第18回の舞台裏や撮影中盤を迎えた思いを語った。

-第18回、政次と直虎の対話は見応えがありました。

 政次は、今考え得る最善の方法で直虎と向き合ったんだと思います。目付という立場上、本音を全て出してしまう訳にはいきません。それでも、できる限りベストな形で本音を言いつつ、家老や目付などいろいろな見地から総合して、「戦わない道を選ぶ」という答えを出したのではないでしょうか。

-柴咲コウさんとあの場面を演じた感想は?

 お芝居というのは、せりふの応酬ではないと思っています。僕が一番大事にしているのは、言葉の間(ま)や呼吸。歌舞伎の世界に例えるなら、拍子木が鳴っている時ではなく、拍子木と拍子木の間です。そこに人間の本質的なものが宿ると考えています。その間の呼吸やアイコンタクトによって、お互いに通じ合うものが生まれる。お芝居はどこまで行っても“ごっこ遊び”だと思う方もいるかもしれませんが、そうではない瞬間を求めてやっているのが俳優だと思っていて。そんな瞬間が、あの時の柴咲さんとの間には確かにありました。

-政次と直虎の関係は、このドラマの大きな見どころです。撮影も半年を過ぎて、柴咲さんとのお芝居の感触も変わってきたのでは?

 柴咲さんは、僕の芝居を細かく見てくださっています。最初のころは、「どんなお芝居をするんだろう?」と探りながら演じている印象がありました。ですが最近は、迷いがなくなって「政次は大丈夫」という感覚が目に現れているので、僕も安心してお芝居ができます。その通じ方は、この半年やったからこそだと思うので、とても大事にしています。これからは直虎との関係性をもっと深めて、行間の部分をいかにせりふでなく目配せなどで皆さんに伝えられるかということにトライしていきたいです。それができるのは、相手が柴咲さんだからこそです。

-第18回まで直虎を欺き続けた政次を、どのように捉えていましたか。

 結果的には裏切っていませんでしたが、政次自身は「裏切った」という感覚を持っていたはずです。第12回で寿桂尼(浅丘ルリ子)から選択を迫られた際、裏切らざるを得なかった。政次は、その時の重責をずっと背負っていると思います。直虎に真意を伝えた後も、自分の思いと剥離しないようにしつつ、家中の他の人間はだまし続けなければいけませんから、いつまでも表裏を使い分けることになる。そんな複雑な人間にならざるを得ない政次に「頑張っていこう」と声を掛けてあげたいし、これからも寄り添いながら演じていきたいです。

-まだまだ政次の見せ場はありそうですね。

 政次の本音には二種類あります。但馬守としての本音と、直虎の幼なじみの鶴丸としての本音。その上、裏もあるわけです。自分でも「俺は何を言っているんだろう」みたいな状態で進んでいくこともあります。そんな状況なので、今後は本質的なことを言葉ではなく、例えば直虎と囲碁を打つシーンなどでどんどん見せていけると思います。そばから見たら、ただ囲碁をやっているように見える中で、複雑な会話をしたり、印象的な手を打ったり…。それがまた、難しい事態を招くことになるのかもしれませんが…。

-政次は、城主になった直虎をどう見ていたのでしょうか。

 幼なじみの時の感覚は、今も強く残っているはずです。最初の4話で子ども時代がしっかり描かれていたので、ずっと見て下さっている方は、2人の本来の関係や優しさに気付いて下さっているに違いありません。それを前提に考えると、直虎に向き合う政次は、正直、幼なじみとしては心配だし、できることなら自分が代わりたいと考えたでしょう。政次は本来、自分で井伊家を仕切ることができるくらい頭がいい人です。ただ、直虎のことになるともろさが出て、反射的に動いてしまうことも多い。そこが人間らしくて、とても面白いです。

-小野政次という役の魅力は?

 以前、僕が「軍師官兵衛」(14)で井上九郎右衛門を演じた時、心に残ったせりふに、「内に秘めたるものだ」というものがあります。政次という役は、その「内に秘めたるもの」とは何か、改めて考える機会になりました。“芝の上に居る”と書くように、僕の理想とする芝居は何もしないことです。ただいるだけで何が語れるか。政次については、見ている方それぞれの解釈があると思います。ですが、言葉や行動などいろいろなものを省いていった時、どうやったら本当に伝えたいことを届けられるのか。そういう挑戦が、さらに密度の濃い形でできているような気がします。

-政次は、目付という立場で今後も今川家と関わっていきますね。

 今川家は直親の命を奪った相手なので、複雑な思いはありつつも、政治的な面で渡り合って行かなければなりません。これから先、今川は苦境に立たされることになります。ただ、政次以上に直虎が、寿桂尼のことを案じるなど、今川の苦しい状況に理解を示すようになっていきます。そうすると、政次自身はスパッと切り返してやろうと思っていても、直虎のその気持ちを受けて考え直してしまう。そんな場面も出てきて、今川も必死に生きている雰囲気が漂ってきます。

-高橋さんの頬がこけてきたせいか、父・政直を演じた吹越満さんそっくりに見える時があります。日々お忙しいと思いますが、体調管理はどのようにされていますか。

 風邪だけは引かないように気を付けています。役者は、風邪で休める仕事ではありませんから。体調管理を第一に考えているので、僕はここ10年ぐらい風邪を引いたことがありません。よく食べるし、運動もしているし、体調は非常にいいです。頬がこけて見えるのは、激務で痩せたわけではなく、父・政直に似せるために意図的に体を絞った結果なので、どうか安心して政次を見守っていただけるとうれしいです。

(取材・文/井上健一)