左から橋本さとし、松たか子 (撮影:西村康) 左から橋本さとし、松たか子 (撮影:西村康)

シャーロット・ブロンテの傑作小説を舞台化したミュージカル『ジェーン・エア』。2000年のブロードウェイ初演を手掛けて数々の賞賛を浴びた演出家ジョン・ケアードは、2009年に自ら新演出に挑み、「ブロードウェイ版を越えた完全版」とうたわれる感動の日本初演を生み出した。不遇な出生に負けず強く生き、愛をつらぬく主人公ジェーン・エアを真摯な歌声で熱演した松たか子は、本作で第35回菊田一夫演劇賞を受賞。相手役ロチェスターに扮した橋本さとしは陰影の魅力に富んだ男性像を作り上げ、深い余韻を残す好演をみせた。この秋、その初演の名コンビによる愛の物語が復活する。待望の再演に臨む、ふたりの思いを聞いた。

ミュージカル『ジェーン・エア』チケット情報

「初演、再演に関係なく舞台に立つドキドキした気持ちに変わりはない。共演の皆さんのこの3年間のパワーをいただいて、また新しいジェーンを演じられたら」と新鮮な感覚で再演をみつめている松に対し、橋本は「緊張感がずっと漂う、集中力をかなり使った舞台だった。どれだけ自分が緊張して大変だったか、また、そんな作品に入っていける幸せ、喜びをわかった上での再演になるので、前回とはまた違うものになるのでは」と初演を踏まえての自らの変化に期待をかける。それぞれ心に痛みを抱え、不器用に惹かれ合うジェーンとロチェスター。初演では、荒野を背景とした舞台に生の力強さをみなぎらせて立つ、ふたりの確かな存在感に圧倒された。

「ジェーンは完璧な女性ではなく、気が強くて頑なところも持っている人。普通に迷いながら生きている、そんな人間的なところも表現できたらと思っていました。でもそれは、ロチェスターやほかの登場人物と対峙して発見できたこと。人との出会いで成長していくジェーンに共感しますね」と松。一方、ロチェスターを「女性から見たら大ひんしゅくな男」と笑う橋本は、「背徳の愛に苦しんで危険を冒そうとする。しかもその苦悩を自分ひとりで耐えきれず、ジェーンにさらけ出すんですよ。男の弱さをみせるキャラクターですよね。その弱さにジェーンは手をさしのべる。女性は男性とは違う種類の愛を持っているのかな?」。橋本の疑問を受けて、松が「それは恋をしているから」と限りなくシンプルに、鮮やかな答えを繰り出した。「ロチェスターに出会って、ジェーンは理屈じゃ整理できない気持ちに陥った。苦しみながら生きる人に親近感を抱くところもあったかもしれません。それもロチェスターの持っている魅力なんですよね」。

物語のクライマックスには、「魂の叫びが響いて、真実の愛を分かち合える」(橋本)、「じわじわと幸せな気持ちになれる」(松)と両者が強く推す感動のシーンが待ち受ける。美しい旋律に乗ってドラマチックに展開する、珠玉のラブストーリーをとくと味わいたい。

公演は10月6日(土)から28日(日)まで東京・日生劇場のほか、福岡・博多座でも上演される。東京公演のチケットは7月29日(日)10時より一般発売開始。

取材・文:上野紀子