(C)田辺・弁慶映画祭 第10回記念映画プロジェクト

 現在、全国の映画館では年間600本以上の日本映画が公開され、テレビでは数多くのドラマが放送されている。その中から新しいスターをいち早く見つけ出すのは、ファンにとっては喜びだが、これだけあるとチェックするのも一苦労。そんな中、押さえておきたい注目の俳優たちをそろえたのが『ポエトリーエンジェル』(全国順次公開中)だ。

 ダブル主演を務めるのは、岡山天音と武田玲奈。岡山は、『帝一の國』(全国公開中)、「貴族探偵」(フジテレビ系)など、数多くの作品で存在感を発揮する若手俳優。一方の武田は、2015年に女優デビューし、現在は「100万円の女たち」(テレビ東京系)、『ラストコップ THE MOVIE』(全国公開中)、『仮面ライダーアマゾンズ』(Amazonプライムビデオで配信中)などで活躍中だ。

 ボクシングのリングに見立てたステージで、2人の選手が互いに詩を朗読、聞き手の判定で勝敗を決める「詩のボクシング」に打ち込む若者の成長を描いた本作で、岡山が演じるのは、満たされない思いを抱えたまま実家の梅農家で働く主人公・玉置勤。その鬱屈(うっくつ)した気持ちを「僕の腕は草刈り機だ!」と詩に託して爆発させる。劇中、何度も繰り返される朗読場面は、メリハリの効いた演技とコミカルな演出で、クセになる面白さだ。

 静と動を使い分ける岡山に対して、黙々とボクシングの練習に打ち込む女子高生・丸山杏役の武田は、全編ほとんどせりふなし。その分、印象的な大きな瞳が内に秘めた感情を伝え、わずかなせりふが見る者の心に突き刺さる。

 対照的な存在感が際立つ2人に加え、彼らが参加するチーム「ポエマーズ」のメンバーも個性派ぞろい。「おんな城主 直虎」(NHK)、「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(フジテレビ系)の芹澤興人は、自称ラッパーの男に扮(ふん)してラップ風に詩を朗読。対して、詩吟風の朗読で笑いを誘うのは、NHKの朝ドラ「花子とアン」(14)で注目を集めた山田真歩。ベテランの下條アトムが脇を固め、人気お笑いグループ「東京03」のメンバーで、『笑う招き猫』(全国公開中)などで俳優としても活躍する角田晃広が、威勢よくチームを率いる。

 若者の成長を描いたストーリーは青春映画の定番と言えるが、シンプルな分、役者の魅力が引き立つ。女子高生と団体戦を繰り広げるクライマックスは、「役者も追い込まれて良いものを出してくると思った」(劇場用パンフレットのインタビューより)という監督の意図により、勝敗を決めずに撮影。その場でリアルに勝敗を判定するという演出がなされている。その緊張感が伝わる俳優たちの演技は見ものだ。

 俳優たちの生き生きとした演技が光る本作は、いわば“青春映画”というシンプルな調理方法で“俳優”という素材の持ち味を最大限に引き出した新鮮な刺身だ。その包丁を握ったのは、「詩のボクシングを映画に」という長年の構想を実現した新鋭・飯塚俊光監督。さらに、若手監督の登竜門「田辺・弁慶映画祭」の第10回記念映画として製作された本作には、10年に及ぶ関係者の思いも詰まっている。さまざまな思いを背負った俳優陣の熱演は、必ずや見る者の心を捉えるに違いない。
(井上健一)