「気持ちの持っていき方」をすごく考える

あんさんぶるスターズ! ユニットソングCD 第2弾 vol.10 Trickstar ©2014 Happy Elements K.K

――桑原さんの公式プロフィールには“「音楽はドラマ、メロディーには物語を」を合言葉に、楽曲制作を行っている”とありますね。

桑原:いやあ、バカっぽいこと書いてますよね(笑)。

――いえ、『あんさんぶるスターズ!』の曲は本当にそうだなと思います。物語とキャラクターがあってこその曲だということが伝わってきます。

桑原:例えば、普通のポップスはワンコーラスのなかにAメロ・Bメロ・サビがあって、そのあとの構成はいろいろあるけど、最後に大サビがあって……みたいな。そこでは基本的にサビのメロディは一緒のものが使われますよね。僕はその気持ちの持っていき方をすごく考えていて。

普通に上質な音楽を求めるなら、「より上手く歌えているテイク」をひたすら重ねていって、1番も2番も3番も同じくらいうまいものを作りたいのが通常の考え方なんですが。

僕のイメージとしては、1番の歌詞で歌われている心情を、2番を経て、最後落ちサビや大サビで、皆との絆が高まっていって……そうすると歌にもやっぱり感情が乗るんじゃないかと。同じメロディや歌詞なんだけど違うものを聴いているような感覚になる、みたいなことはすごく意識して作っています。

「キャラならではの音の見え方」を

――Arte Refactは同人音楽制作に携わっていた方が集まった制作チームと伺っています。キャラクターソングと親和性が高いのは、出身からの影響はあるのでしょうか?

桑原:もともとは普通にバンドマンだったんですが、バンドでのデビューを蹴って同人音楽の世界に入ったんです。当時は頭が悪かったので、「大人の食い物にされるくらいなら好きなことやりたい」と思ったんでしょうね(笑)。

もともとなぜ同人音楽にハマったかというと、「音楽の形ってもう少し自由で良いんじゃないか」という思いがあって。

J-POPというジャンルの中で、決まったコード進行やメロディがあって……という音楽制作よりも、もう少し違うやり方があるんじゃないかと感じていました。たとえばキャラクターの心情を歌うだとか、映像にあった音楽を作るということに興味があったんです。

――なぜそう思うようになったのでしょうか。

桑原:僕が音楽を始めた頃は90年代後半の、フジテレビの月9だったり日本テレビの土曜9時のドラマ全盛期で。僕もドラマが好きでよく観ていて、その中でもちろん内容に合った主題歌もあったんですけど、「もう少し内容と親和性がある曲がいいな」と感じていたんです。

――その時期のテレビドラマの場合はとくに、主演のアイドルの曲が起用されることも多かったですよね。

桑原:それはそれでもちろんすごく好きなんですけど、もっとリンクしたものが作れるんじゃないかなと感じていて、そんなときにアニメ音楽に出会ったんです。

アニメだと、登場するキャラクターの心情を乗せている曲に、そのキャラの映像や、キャラの心象風景のような映像が乗るじゃないですか。そこのシンクロに惹かれたんです。音楽だけじゃ伝わらないものがあるんだなと。

普通に音楽をやっているだけじゃなくて、キャラクター性、作品に触れるなにかを作りたいなと思って、同人音楽に足を踏み入れたという感じです。

――キャラクターが根幹にあるからこそできる表現に惹かれたということでしょうか。

あんさんぶるスターズ! ユニットソングCD 第2弾 vol.01 UNDEAD ©2014 Happy Elements K.K

桑原:そうですね。極論を言うと、音楽って音階だけだと12音階しかなくて表現できる幅が限られてしまうんですが、「キャラならではの音の見え方」があるというか。

例えば、明るさだったり暗さだったり、アンニュイだったり、ちょっとだけ見える影の感じ、そういうものをどう伝えていくのか。そういうことを考えて表現できるのがキャラクターソングというものだと思っています。

なので、できるだけキャラを理解した上で、作詞家さんとも綿密にやりとりするのが楽しいですし、原作ものなら原作者さんに監修してもらえるのが一番良いものになるんじゃないかと思っています。

――ちなみに桑原さん自身はアイドルソングをもともと聴いていましたか?

桑原:僕は生まれて初めて買ったCDが光GENJIの『パラダイス銀河』なんですよ。潜在的にアイドルが好きだったんですね。バンドをやるようになって少し離れましたが、今も普通に聴きますね。