大原 巌・登場作品『月下の棋士』

伝説の名棋士に育てられた天才少年がふらりと東京に現れ、将棋界に旋風を巻き起こす傑作コミック。対局中の涙、絶叫、心臓停止など苛烈なシーンも当たり前で、勝負に命をかけるプロ棋士たちの生きざまがダイナミックに描かれる。

そんな本作で、序盤のボス格として主人公・氷室 将介の前に立ちはだかるのが、十五世名人の大原 巌である。受け将棋を得意とし、純粋な棋力だけでも作中トップクラス。だが本当におそろしいのは、相手の心をゆさぶり対局を有利に進める「盤外戦」のうまさだ。

タイトル挑戦時に上座を奪って相手をイラつかせる(普通はタイトル保持者が上座)、誰も見ていないところで土下座して八百長を持ちかける、重病で酸素ボンベが必要な対局では「ボンベ残量が2時間しかない」と告げて相手を脅すなど、どんな手段を使ってでも勝利をもぎとりにいく。

藤井四段にかぎらず、もし現代の若手棋士がこれほど老獪な猛者と対戦したら、どういった展開になるだろうか。

峠 なゆた・登場作品『将棋めし』

プロ棋士たちが食べる「勝負めし」にフォーカスした、ネットで話題の将棋&グルメコミック。その主人公を務めるのが、峠 なゆた六段だ。

可憐な女性でありながら、真っ向勝負で男性プロからタイトルをもぎ取る実力者。「対局相手と同じものは注文したくない」「相手が竹のグレードを選ぶなら、自分は松を注文する」など食べ物へのこだわりが強いキャラとして描かれている。

その食欲は棋力にも影響をおよぼし、劣勢時でも食事をきっかけに打開策をひらめくほど。彼女の食事メニューは作中の将棋雑誌で記事にされることもあり、「将棋界の人たちはどれだけ食べ物が好きなんだよ!」と感心せざるをえない。

なお、現実の将棋界もなぜか食事ネタには敏感で、ネットやテレビ番組で藤井四段の「勝負めし」特集がたびたび組まれている。棋力勝負もさることながら、この両者の“めし対決”を見てみたいものである。