日本でも人気の画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853ー1890)は、浮世絵など日本美術に強い興味を抱いていたことが知られている。一方で日本でのゴッホブームも意外に早く始まっており、彼の死後30年が経った1920年代には、多くの日本人画家がフランス・オーヴェール(ゴッホの没した地)を訪れている。今夏開催される『ゴッホ展 巡りゆく日本の夢』は、ゴッホが愛した“日本”とその作品の軌跡をたどると共に、日本の画家や作家がゴッホから受けた影響までを展示する大規模な展覧会だ。オランダにあるファン・ゴッホ美術館と6年をかけた初の本格的共同企画展で、日本初公開作品も目白押しというから見逃せない。

ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 チケット情報

3月14日に行われた会見では、総合監修を務めた圀府寺司氏(大阪大学文学研究科教授)が本展のユニークな内容を解説。第1部「ファン・ゴッホのジャポニズム」では、オランダに生まれ、1886年にはパリに移ったゴッホが、浮世絵などから構図や色彩を学んでいく課程が示される。

渓斎英泉の『雲龍打掛の花魁』を模写し、理想郷“日本”に似た風景を追い求めて移り住んだアルルでは『雪景色』(日本初公開)を描き上げたゴッホ。「雪の中で雪のように光った空を背景に白い山頂を見せた風景は、まるでもう日本人の画家たちが描いた冬景色のようだった」と自ら語るとおり、その灰色の色彩は確かに日本の寒村を思わせる。また『寝室』については「日本人はとても簡素な部屋で生活した」「(この作品では)陰影は消し去った。浮世絵のように平坦で、すっきりした色で彩色した」とも語っており、日本文化そのものへの敬愛がうかがえる。

続く第2部「日本人のファン・ゴッホ巡礼」では、今度はゴッホに魅せられた日本人の、ゴッホへの想いが明らかにされる。

ゴッホの死後まもなく彼の生涯や作品を紹介したのは、武者小路実篤や岸田劉生ら白樺派と、その周辺の文学者や画家たち。ゴッホを看取ったガシェ医師の家には、生前売れなかったゴッホの作品が残されていたこともあり、多くの日本人が同家を訪れて芳名録に署名した。本展ではこの芳名録(フランス・ギメ東洋美術館蔵)を日本初公開するほか、同地を描いた佐伯祐三ら日本人画家の作品や、日本画家の橋本関雪がガシェ家を訪問した際の記録映像など、貴重な動画も併せて公開される。

本展は北海道立近代美術館(8月26日~10月15日)、東京都美術館(10月24日~2018年1月8日)、京都国立近代美術館(2018年1月20日~3月4日)と巡回。その後はアムステルダムのファン・ゴッホ美術館でも開催され、カタログは最新の情報を盛り込んで日本語、英語、オランダ語など数ヶ国語で出版される予定だ。

ここでしか見られない、人間・ゴッホのリアルな姿。想像以上の日本との関わりに、新鮮な感動を呼び覚まされる展覧会になりそうだ。

取材・文 佐藤さくら