奥山六左衛門役の田中美央

 井伊家重臣・奥山家の当主でありながら、武芸は不得意で性格も気弱。ちょっと頼りないところはあるものの、実直な働きぶりと憎めない人柄で、中野直之(矢本悠馬)と共に直虎(柴咲コウ)を支えるのが奥山六左衛門である。“六左”の愛称で親しまれるこの人物を好演しているのが、長年、舞台で活躍してきた田中美央。オーディションで勝ち取った念願の大河ドラマ初出演は、家族を挙げての大騒動になったという。

-大河ドラマ初出演に至った経緯をお聞かせください。

 芝居を始めて20年ぐらいになりますが、僕は今までほとんどテレビに出演したことがありませんでした。ずっと応援してくれていた両親もさすがに心配したのか、去年あたりから父親が「大河とかには出られないのか」と言い出したんです。ちょうど『日本のいちばん長い日』(15)への出演をきっかけにオーディションのお話を頂いて、その時はもう結果を待っている状態だったのですが、ぬか喜びさせたら悪いと思って黙っていました。

-出演が決まった時はどんな様子でしたか。

 もう喜び大爆発です。実家は宝くじに当たったような大騒ぎになりました。でも、そこで言われたのが「皆さんに見ていただくのだから、まずは痩せろ」(笑)。結局そのまま出ていますが、今でも応援メールの最後には必ず「私は痩せていた方がいいと思うよ」と書いてあります。反響もすごくて、放送されるたびに母親から、「誰々さんからこういう感想が」というリストが送られてきます(笑)。

-六左衛門という人物をどのように捉えていらっしゃいますか。

 だいぶ頼りないですよね(笑)。でも、なんだかんだ言って、六左衛門は直虎とも直之ともうまくやっています。なぜだろうとその理由を考えたのですが、奥山家はしの(貫地谷しほり)やなつ(山口紗弥加)という妹がいるので、女性の顔色をうかがうことが上手だったのではないかと。最初は「怖い、怖い」と言ったり、オロオロしているような演技しか思いつかなかったのですが、そこに気付いてから演技の幅が少し広がりました。25~26回ぐらいになると、六左衛門が殿の半歩先を行って「次はどうしますか」と率先して発言するようなシーンも出てきます。そういうところで井伊家中のバランスは取れているのかなという気がしています。

-直虎役の柴咲コウさんの印象はいかがですか。

 コウさんは座長として、どんどん大きな存在になっていっています。みんなが不安を共有していた最初のころ、率先して疑問点などを監督と話し合って下さっていました。それをわれわれが共有していく中で、城主としてどんどん大きく、強くなっています。最初、不安でいっぱいだった僕に、知らなかった撮影用語のことなどを全部教えて下さったのもコウさんです。とても優しい方です。

-印象に残る柴咲さんのエピソードはありますか。

 最初のロケで、2人で馬に乗って今川から井伊谷に帰ってくる場面を撮った時のことです。待ち時間にコウさんがしゃがみこんで何かを探し始めたんです。何をしているのかと思ったら、四つ葉のクローバーを探していて。それを遠くから見て、なんてかわいらしいすてきな人だろうと…。でもそれは、六左衛門の心境とも重なるところがありました。殿様だけどどこかかわいらしい女性的な部分があるから、守ってあげようという気になる。その一方で、直虎も六左を守ってあげようと思っている。そうやってお互いに優しさで包み合っている…そんな気持ちになりました。

-今までで印象に残っているシーンはどこでしょう。

 一番印象に残っているのは、六左衛門が殿に忠義を尽くそうと決意する第14回(4月9日放送)です。逃散していた百姓たちが帰ってきて、殿自身も水田に入って泥まみれになる。家臣だけでなく、村人も認めて直虎という殿様が誕生したあの瞬間が一番印象に残っています。でも、それと同じくらい印象的なのが、政次のいじめ…(笑)。直虎と対立していたころ、六左衛門が穴だと気付いた政次が、いろいろ突っついてくるんです。そうすると、六左衛門は秘密が守れない性格なので、言うまい、言うまいと思っていても、抵抗できずにぽろっとしゃべってしまう(笑)。(政次役の高橋)一生さんも、時々いたずらをしてきて…。

-どんないたずらを?

 館で一緒にいる場面のリハーサルの時、去り際に優しく手をなでて行ったり…。別のリハーサルの時には、何か見られている気配を感じて、おかしいな…と思っていると、ものすごく遠くから一生さんが見ていたり…。すごく優しいいたずらです(笑)。

-これまで活動されてきた舞台とテレビの違いは感じますか。

 一般的に舞台の演技は大きく、テレビの演技は少し抑えるというイメージがあったので、最初は抑えてやっていたんです。そうしたら、監督から「六左衛門はもっと大きなお芝居で」と指示を頂いたので、舞台のような大きな芝居に変えました。「こんなに大きくやって大丈夫かな?」と不安でしたが、完成した作品を見たら、お芝居を大きくすることによって、その人の人間性の大きさみたいなものが出るんですね。その上、他の方が抑えている中で僕が大きくやることで、その対比で井伊谷の持っている朗らかさや温かな感じも出る。それが分かった時は、「さすが監督!」と思いました。

-演技については、監督の指示通りなのでしょうか。

 最初は「こんな感じでどうでしょう」とお伺いを立てながらやっていましたが、テイクを重ねる中で「さっきのお芝居に納得がいかなければ、全く違うお芝居をしてもいいですよ」というお話を頂いたので、だんだん楽しくなってきて、今は自由にやらせてもらっています。映像はこんなに自由なんだということが、僕にとっては発見でした。

-実は放送開始前の番宣映像のナレーションも担当されていたとか。

 番宣というのは、グッと凝縮されたものなので、父親やお兄さんが死んでいくシーンを見て、ものすごく感情が高ぶりました。でも、ここで泣く訳にはいかないと思って、一つ一つ読ませていただきました。あまりにも気持ちが乗ってしまい、大丈夫かなと思いましたが、ものすごく熱の入ったナレーションになりました。

(取材・文/井上健一)

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