■言うはずのなかったカッチョ悪い実態に、社長は…

閑話休題。

そんな社長と久々の対面は、こぢんまりとした商店街のバルでした。
行かないという選択肢もありましたが、行かなきゃ行かないでカドが立つ。
なんせこちらは今、仕事クレクレモードなわけで、そうなると古巣だってクライアントの一つと言えなくもない。
こちらは「ども、ご無沙汰でーす」精一杯のスマイルで、
手土産のケーキまで持って参上しました。どうかなるべく当たり障りない会話を…。
スパークリングワインを何杯か飲んだところでした。

「お前、最近何やってんの」

五十を超えた世のおっさんは、いつだって直球です。

「あちゃこちゃ行きたいって言ってたろ、それ行ってんの」

と畳み掛けながらハンバーグを注文します。
行ってはいる。いつ本になるかもわからぬ取材を地味ぃ~にやってはいる。
もちろん現時点では一銭にもならない手弁当、とゆうやつです。
しかし、将来への不安が背後でブレーキをかけ今ひとつ勢いがない。

「あのですね……、ぜんぜん儲かってませんで、基本手弁当なんですが」

情けないことに、里心というやつです。
言うはずのなかったカッチョ悪い実態があっけなく転がり出てしまいました。
身構えました。なんせ、営利追求集団団長ですから。
辞めた人間の不景気に、そら見たことかと喝采しかねない。
こちらやや過呼吸気味。
ところが社長が言ったのは、意外なひとことでした。

「うん、それでいい」