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さて本編に戻りますが、『東京トイボックス』では弱小ゲーム会社のG3に出向していた月山星乃さん。彼女が(おそらく)天川太陽に惚れて、G3の社長を引き受けた後の話が『大東京トイボックス』です。商標売却でそれなりにまとまったお金が入った上に、彼女が社長になったことで、経営はそこそこ安定してるんでしょうね。若干の手違いはあったものの、新人の百田さんも来て、会社は順調に……とは行きません。漫画ですから。外に向けては大手のソリダスワークスを始め取引先との軋轢はありますし、内を見てもトラブルが連発です。

そこで漫画に度々出てくるキーワードが“魂”です。「ゲーム魂」「魂が違った」「魂はあってる」とか。ただまぁ、魂って何だか便利な言葉ではあります。否定的な意見を言って理由を聞かれた時に「魂が違った」と言えば、呆れられるにせよ、それ以上の追求は止みそうです。女性に告白し理由を聞かれて「魂があってる」と答えれば、何となく感動的なシーンになりそうです。

そして漫画につきものがライバルの存在。ここでも大手ゲームメーカー、ソリダス・ワークスの重役である仙水伊鶴が存在します。天川とは中学校以来の友人ですが、本能肌の天川と、どちらかと言えば秀才肌の仙水。2人ともソリダスに入社しながら、行き詰まって独立した天川と、ヒット作を連発して順調に出世していく仙水。剛毛でむさい天川と、スマートでハンサムっぽい仙水。まさにうってつけのライバルです。秀才肌と書きましたが、それは天川に対してであって、普通の人から比べれば、仙水も十分に才能はあるのでしょう。ただ天川には及ばないかなと。

天川をモーツァルトと見たソリダス・ワークスの別の重役から、仙水は“サリエリ”と指摘されます。これはオーストラリアの音楽家アントニオ=サリエリのことで、舞台や映画『アマデウス』で取り上げられたことで有名になりました。内心では仙泉自身も結構もがいていると思うのですが、そのスマートな外見には、あまり出てきません。過去にソリダスワークスで天川と喧嘩する場面もあることから、今のようなスマートでシニカルになったのは、天川がソリダスワークスを離れた以後。せいぜい数年前なのでしょう。

ただ澄ました顔の下で、仙泉の“魂”は生きているはず。その証拠に天川に何かとちょっかいをかけてきます。天川はともかく、巻き込まれる月山さん達が可哀想なのですが、ここは運命共同体と諦めてもらいましょう。格闘漫画で魂のぶつかり合いがあると、天川キャラのような愚直な側が勝つのですが、ゲーム業界ではそんなわけには行かないんでしょうね。