『テイク・ディス・ワルツ』撮影中のサラ・ポーリー (C) 2011 Joe's Daughter Inc.All Rights Reserved

『死ぬまでにしたい10のこと』の主演女優として知られ、監督デビュー作『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』が絶賛を浴びたカナダの才媛サラ・ポーリー。待望の監督第2作『テイク・ディス・ワルツ』を完成させた彼女が、新作への思いを語った。

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『テイク・ディス・ワルツ』は、幸せなはずの結婚生活を送るヒロインが、別の男性に心惹かれてしまい、抑えきれない感情や欲望に揺れ動く姿を、詩情あふれる映像で綴った人間ドラマ。“不倫”や“三角関係”といったキーワードで括ることも可能だが、パートナーとの関係において誰もが感じる不安や戸惑いを怖いくらいリアルに切り取っており、的確過ぎる人間観察に震えがくる傑作に仕上がっている。

『アウェイ・フロム・ハー』でも“試される夫婦愛”を描いていたポーリーは、「“長きにわたる人間関係”というテーマにすごく惹かれる」と告白する。「結婚したカップルに何が起きるのか? 誰かとの関係はずっと続くのか? なぜ私たちは人生に何かが欠けていると感じ、埋めてくれる相手を探してしまうのか? 興味深かったのは、多くの人がこの映画を『精神的に未熟』だと批判したこと。主人公には素晴らしい夫がいるのに、捨てようとするなんてけしからんって(笑)。でも一方で『もっと早く別れるべきだった』と言う人もいれば、夫が犯している大きな間違いに気づく人もいる。本当にいろんな感想があって、観た人が語り合ってくれていることが嬉しいの」

主人公のマーゴを演じたのは、ポーリーが「彼女しかいない」と白羽の矢を立てたミシェル・ウィリアムズ。「実は自分で脚本を書いたくせに、マーゴがどんな人物なのかつかみかねていた。でもミシェルはまるで演技なんかしてないみたいに、自然にマーゴになりきっていた。ミシェルの演技を通じてようやくマーゴを理解することができたわ」

コメディが主戦場のセス・ローゲンも、マーゴの夫役でミシェルに負けない名演技を披露している。特に別れ話を切り出されたときのクローズアップは圧巻で、ポーリーは2時間半もローゲンの表情を撮り続けた。「セスにはただ『ミシェルと話してちょうだい、ミシェルがあなたに別れ話をするから』って伝えただけだった。さすがに疲労困憊してたけど、あの状況に置かれた人に湧き上がるすべての感情を表現してくれた。そしてミシェルも、カメラの横でボロ泣きしながらずっと素晴らしい演技を続けてくれていたの。『ああ、今の彼女を撮影してないなんて!』って後ろめたい気分になったわ(笑)」

監督として新たな到達点に立っただけでなく、ミシェルとローゲンからキャリア最高のパフォーマンスを引き出したポーリーはまだ33歳。そのとてつもない才能の輝きを感じるには、映画館が打ってつけの場所であることは間違いない。

取材・文:村山章

『テイク・ディス・ワルツ』
8月11日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー