さらに挙げれば、高校野球の敬遠行為も同様だろう。トーナメント全体を考えて引き分けや負けを目指すのと、1試合の勝敗を考えて強打者を敬遠するのでは、括りこそ異なるものの考え方は同じところにある。選手宣誓では“正々堂々”“スポーツマンシップ”などの言葉が使われることが多いが、相手の得意を避け弱い所を狙うのが勝負の世界。手段として敬遠がOKならば、引き分け狙いも負け狙いも戦術や戦略として認める他ないだろう。もっとも見ている側が不快に思うのも避けられない。その辺りの折り合いをつけるのが、高校野球でもオリンピックでも、ショー化されたスポーツには必須なのかもしれない。

少し寄り道が大きくなったが、デビュー後の辻堂は勝ったり勝ったり負けたり勝ったりくらいで、着実にクラスを上げている。ただし明らかに地力の差があったデビュー当初とは異なり、上位クラスでは力が拮抗する場面も増えている。ロードで万年2位だった高校時代を省みて、競輪では“王様”以外はありえないとした辻堂は、果たしてどこまで上っていけるだろうか。

競輪漫画の名作に、「週刊モーニング」などで連載されていた
『ギャンブルレーサー』(田中誠)がある。こちらの連載は1988年から2006年と『Odds GP!』より少し前だが、合わせて読むと、競輪世界の推移が良く分かる。主人公は関優勝(せき まさかつ)。強そうな名前だが、性根がかなりねじ曲がっていて、およそ主人公とは思えないキャラクターだ。しかしそれだけに競輪の世界を露骨にかつ赤裸々に描いている。競輪における師弟関係やラインも、関が何人もの弟子を持ったことで、より詳しく描かれている上に、コミカルさも十分だ。連載途中や終了後に競輪制度の改変があったため、今の競輪と若干食い違うシーンがあるものの、流れを読む上では参考になるだろう。『ギャンブルレーサー』は連載終盤になると、関の年齢が上がったこともあり、悲惨な場面が多々見られる。年齢が進めば引退となるのは、スポーツの世界では不思議ではないが、生活の糧を得るためには、そこにしがみつくのも無理からぬこと。弟子が活躍し、息子まで競輪選手になって大きなタイトルを獲得するに至っては、関は完全に脇役になってしまった。そして関の衰えに沿うようにしたわけではないだろうが、競輪の世界も厳しくなっている。

各地にある競輪場は、年間売り上げで基準が異なっている。『Odds GP!』のコミックス2巻では、4号基準(年間売り上げ30億円以上40億円未満)は平塚競輪場だけ、3号基準(年間売り上げ20億円以上30億円未満)は京王閣、静岡、小倉、となっていたが、現在、競輪オフィシャルサイトで公表されているところによれば、5号基準(40億円以上)と4号基準はゼロ、3号基準も松戸のみとなっている。一方で、年間売り上げが10億円未満の1号基準が8ヶ所から19ヶ所へと増えている。競輪関係者にとっては、頭の痛いところだろう。そこでのてこ入れ策のひとつが“ガールズケイリン”だ。売り上げも上々に推移しており、ニュースで取り上げられるなど話題性も大きかった。しかし一時の話題に終わってしまっては無意味だろう。選手や関係者の継続した努力が必要に違いない。

『Odds GP!』や『ギャンブルレーサー』を読んで興味の湧いた方は、競輪場へ足を運んでみてはどうだろうか。もちろんテレビでも放送されていることがあるが、他のスポーツと同様に、現場の熱気は面白いものがある。ただし公営とは言えギャンブルである。車券を購入する際には、くれぐれも余裕のある遊びを心がけて欲しい。

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自転車ブーム、どう思う?[ http://ure.pia.co.jp/articles/-/8291 ]

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。