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 引っ込み思案で他人と関わるのが苦手な女の子・真実は、工場の仕事をクビになり、新たにゲーム会社でアルバイトを始める。これをきっかけに、彼女の世界は少しずつ広がっていくが…。「梅ちゃん先生」(12)、「結婚できない男」(06)などの人気脚本家・尾崎将也の監督第2作目が7月15日から全国順次公開される。自分の世界に閉じこもりがちな女の子の成長を優しいまなざしで見詰めた物語だ。主演は、尾崎監督が彼女をイメージして脚本を書いたという若手女優・門脇麦。作品ごとに違った表情を見せる演技の秘訣(ひけつ)や、この作品に込めた思いを聞いた。

-主人公の真実は、引きこもりだった過去を持つ女の子です。演じる上で最も大事にしたことはなんでしょう。

 暗い子にしないということです。“引きこもり”というワードがあると、“暗い子”と思い込みがちですが、真実ちゃんは好きなものがはっきりしている子です。それはとてもすてきなことなので、おとなしいけど暗い子には見えないように、ものすごく気を付けました。

-引きこもりについては調べましたか。

 特にはしていません。真実ちゃんがなぜ引きこもっていたのかというと、好きなものが家の中に十分にあって、外に出る必要がなかったからです。そこだけ分かっていればよかったので、“引きこもり”というワードに縛られず、家の中で好きなことをしている子、と捉えました。

-作品ごとに全く違った表情を見せる門脇さんの演技は、この作品も含めていつも見事です。役づくりについてお聞かせください。また、演じるに当たって、台本は熟読しますか。

 台本はいつも1、2回ぐらいしか読みません。あとは、せりふを覚えるために見るぐらい。ただ、ファーストインプレッションは大事にしています。初めて読む時は、全神経を集中させて、匂いまでつかみたいというぐらいの気持ちで取り組みます。その上でどう演じようかと考えますが、私は監督絶対主義者なので、現場で「違う」と言われれば、演技を変えることに抵抗はありません。

-現場で監督と相談しながら演技を決めていく感じでしょうか。

 そんなに相談もしません。実際に演じてみて、あとは相手役の方やスタッフの雰囲気、現場の空気などを受けて、「どう立とうかな…?」と。クランクインして2、3日が勝負です。そこで違和感なくカメラの前に立てるか立てないか…みたいな。

-役に共感できるかどうかは、演じる上で重要ですか。

 あまり関係ない気がします。共感できることで見えなくなってしまう部分もありますし、逆に共感できないからこそいい具合の時もあったりしますから。

-尾崎監督の印象はいかがでしたか。

 絵の見た目に強いこだわりのある方だと思いました。歩いたり走ったりする時は、「膝を曲げ過ぎないように」とか「手をぶらんとしながら走って」という指示を受けました。顔のアップを撮る時には「口をあと0.5センチ開けてください」と言われたこともあります。でもそれは、以前から尾崎さんの脚本を読んで感じていたことなので、違和感はありませんでした。

-続いて、作品全体についてお伺いします。この映画は、夢や希望を抱いていない真実が、人生に前向きになっていく姿を描いています。最近はこの作品と同じように、映画やドラマで、夢を持たない主人公が増えているように感じます。その点をどう思いますか。

 夢を持つのはすごくすてきなことですし、その方がドラマにしやすいので、今までそういった作品が多かったのだと思います。でも実際は、真実のように受け身な人が圧倒的に多いのではないでしょうか。私は、日々を大切に生きていれば、人生はたどり着くべき所にたどり着くようにできていると考えています。だから、この作品もナチュラルに受け入れられますし、見てくださる方もきっと共感しやすいはずです。今の若者のニーズにも合っていると思います。

-同世代である“今の若者”について、どんなことを感じていますか。

 今は情報過多な上に人から簡単に評価される時代なので、自分がどう見られるかを気にして、「私はこっち系の人間」とか「私はここのジャンルにいる人間」というふうにカテゴライズしてしまいがちです。逆に、大部分の人が興味を持たないものを好きだと言った相手に対しては「サブカルだよね」とか。でも、果たして本当にそうでしょうか。「色々な物をくっつけてそう見せているだけ」だったり「自分が分からないものをそう思っているだけ」ということも多いのではないでしょうか。そうやっていろいろな物にがんじがらめになる風潮は、窮屈だし、豊かじゃなくなってしまいそうだな、と思います。

-なるほど。

 でも、みんなから憧れられている人が幸せかといったら、そうとは限りません。経済的に豊かな生活を送っていても満たされない人はいるでしょうし、逆に真実ちゃんは周りから“引きこもり”と言われているけど、自分の好きな事をしている彼女は幸せだと思います。だから、みんなもっと自分のことを肯定してもいいんじゃないでしょうか。この映画は、そんな全てを肯定してくれる作品です。

-夢がないことが悪いことではないという映画ですよね。

 憧れを持つのはすごくすてきなことですし、背伸びをすることも大事です。だけど、そういうことばかりしていると疲れるし、むなしくなってきます。この映画を見て「もうちょっと力を抜いてもいいんじゃないかな」と思ってくれたらいいですね。

-1年ほど前に主演された『二重生活』(15)に関連してお話を伺った際、「演技が楽しいかどうか分からない」とおっしゃっていました。そのお気持ちは、今も変わりませんか?

 変わりましたね。あのころは自信もなかったですし、好きで始めた仕事のはずなのに「この仕事が好きだからやっています」ということが怖くて言えませんでした。それを言ってしまうと、自分の責任で仕事していることになるので、そこまで踏み込めなくて。自信がないことにしておくと、すごく楽なんです。そういう気持ちが生まれるのは、仕事に対して受け身だったということですよね。でも私、この映画に入る直前に大きな病気をしたことがあって、その時、せっかく好きな仕事をしているのにもったいないなと思って…。その辺りから徐々に能動的な気持ちが芽生えてきました。すぐに変わるのは難しかったですけど、今はだいぶ楽になりました。

-確かに、当時よりも自信にあふれている感じがします。少し真実ちゃんにも似た心境の変化ですね。

 そうですね。決してバリバリ仕事をすることが目標ではありませんが、人生楽しくないともったいないので、これからもゆるゆると前向きに頑張ります(笑)。

(取材・文/井上健一)