さて、そこで今期の『トッカン』だが、舞台となっているのは宝町税務署。東京国税局管内という設定だが、宝町という名前の税務署は実在しない。国税局は全国に11ヶ所あり(沖縄は国税事務所)、東京国税局はそのうちのひとつ。それぞれの国税局管内に税務署があり、税務署は全国に524ヶ所ある。国税局が大企業や著名人、大口納税者を扱うのに対し、税務署はそれ以外の会社や個人を対象にしている。要するに、税務署は、国税を扱う財務省、国税庁、国税局、税務署で形成されるピラミッドの最前線ということだ。

税務署での仕事が認められて、国税局に異動になることもある。映画『マルサの女』の板倉亮子(宮本信子)も港町税務署から国税局への異動だったし、『ナサケの女』の松平松子(米倉涼子)も西伊豆の小さな税務署から東京国税局への抜擢だった。警察組織の本庁と所轄でもこうした異動はあるが、国税局を「本店」、税務署を「支店」と呼ぶ隠語も警察と似ている。警察大学校と同じように、税務大学校というのもある。国家試験に受かってから研修を受ける場所なので、給料をもらいながら勉強をする。『トッカン』のヒロイン・鈴宮深樹と天敵・南部千紗は、税務大学校の同期という設定だ。

宝町税務署に務める『トッカン』の鈴宮深樹(井上真央)は、国税徴収官。納付されない税金の督促や滞納処分を行うのが仕事で、徴収の「徴」がぎょうにんべんなので、ギョウニンと呼ばれている。そして、鈴宮の上司、鏡雅愛(北村有起哉)の役職が、頭に「特別」という文字がつく特別国税徴収官。これを略してトッカン(特官)といい、とくに悪質な案件を扱う。

トッカンには、特別国税調査官もいて、『チェイス』で江口洋介が演じた春馬草輔も、最後は特別国税調査官として東京国税局から多摩税務署に異動になっていた。もっと厳密に言うと、トッカンには、厚紙特官薄紙特官という区別もある。国税庁長官から辞令が出て、署長・副所長クラスになるのが厚紙特官。国税局局長から辞令が出て、課長クラスになるのが薄紙特官。辞令の紙が厚いか薄いかでこう呼ばれているらしい。『チェイス』の江口洋介は、娘に「左遷?」と聞かれ、「栄転だよ。課長」と答えるシーンがあるので、薄紙特官での異動だったと思われる。実際、ドラマの中でも辞令の紙が映ったが、ペラペラの紙だった。

厚紙特官には、必ず「付」の調査官が1名ついて、ペアで行動するらしい。井上真央が演じる鈴宮は、この特官付き徴収官という設定だ。ただ、『トッカン』の鏡(北村有起哉)は、署長(岩松了)よりは下で、統括(池田鉄洋・おかやまはじめ)よりも上のようなので、薄紙特官だと思われる。まあ、いずれにしても優秀であることには変わりない。

『トッカン』は、安定した職業に就きたくて公務員を目指した鈴宮深樹(井上真央)が、トッカンである鏡(北村有起哉)の補佐として仕事をしていくうちに、国税徴収官としても、ひとりの人間としても成長していく物語。ドラマはあくまでもフィクションだが、仕事現場の一端は垣間見れるかもしれない。

実際に国税徴収官を目指すかどうかは別にしても、若き社会人の成長物語として、最後まで見守ってみるのもいいのでは?


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【TVドラマ】今期はどれ見る?2012年「夏ドラ」見どころ情報[http://ure.pia.co.jp/articles/-/6928]

【関連サイト】
『トッカン~特別国税徴収官~』公式サイト[http://www.ntv.co.jp/tokkan/]

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歴代“国税専門官”ドラマ&映画、どれが好き? [ http://ure.pia.co.jp/articles/-/8339 ]

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。