『英国王のスピーチ』稽古風景 『英国王のスピーチ』稽古風景

東山紀之主演舞台『英国王のスピーチ』の稽古が佳境に入った。東山が演じるのは、イギリスの現女王エリザベス2世の父、ジョージ6世。1930年代当時の空気が感じられる稽古場で、演出の鈴木裕美に話を訊いた。

吃音症のコンプレックスで演説もまともにできなかった王子バーティ(東山)が、どのようにして国民に愛される王へと成長したのか。物語は、彼のたどった軌跡を、心の支えとなった妻エリザベス(安田成美)、吃音症の治療にあたった言語聴覚士ライオネル(近藤芳正)らとの関係を通して描いていく。

「ライオネルは俳優の“なり損ない”。つまり、王の“なり損ない”であるバーティと、その部分では共通しているんです」と語る鈴木は、この作品を「それらしくなれない人が、やはりそれらしくなれない人の力を借りて、本物になるまで」のドラマだと読み解く。

稽古していたのはまさに、そんな彼らの心が触れ合うきっかけのシーンだった。父であるジョージ5世が他界し、自らの責務がより重大になると悟ったバーティは、ライオネルの診療室に2度目の訪問を果たす。訪ねては来たもののなかなか胸襟を開けずにいる王子に対して、聴覚士はいきなり、『スワニー河』などのメロディに乗せてしゃべるようにと提案。歌うことで吃音の症状が和らいだと見るや、バーティに次々と辛らつな質問をぶつけていく。

「折り目正しい東山さんが、得体の知れない近藤さんに翻弄される。そのコントラストを出したかった」という意図通り、身分も個性も異なるふたりのやりとりは意外な方向へとバウンドし、絶妙な間合いに笑いが起きる。会話のテンションやリズムがそうさせるのではない。俳優が意識を向けているのは、その瞬間の心理状態。時々刻々と変化する両者の心の距離がシーンに起伏を生み、観る者を飽きさせない。

2010年の映画が記憶に新しいが、もともと舞台として発表された作品だ。今回は知的な作劇に定評のある倉持裕が上演台本を手がけ、日本人にもわかりやすく、劇的構造の明解な舞台にブラッシュアップさせた。「感情の動きは映画以上にダイナミック」だと鈴木は言う。「オープンハートで演じれば、演技プランどおりに進めるのとはまた違って、“自然にこうなってしまった”という生々しい表現になる。そこを目指すのは、東山さんにとっても新しい挑戦になるだろうと期待しています」。

8月24日(金)から9月9日(日)まで東京・世田谷パブリックシアター、9月14日(金)から17日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。