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 変貌するサンフランシスコを舞台に、ひたすら“ある家”にこだわる一人の黒人青年の姿を通して、移民やマイノリティーの問題、都市開発によって取り残された人々の姿を描いた『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が、10月9日から公開される。

 サンフランシスコに生まれ育った黒人のジミー(ジミー・フェイルズ)は、祖父が建て、幼い頃に家族と暮らした、高級住宅街にあるビクトリアン形式の家を愛していた。

 ある日、その家が売りに出されたことを知ったジミーは、再びそこに住むために奔走する。そんなジミーの思いを、親友のモント(ジョナサン・メジャース)は静かに支えるが、やがて、彼らはある真実を知ることになる。

 本作は、『ムーンライト』(16)を製作した映画スタジオ「A24」とブラッド・ピットが率いる「プランB」が再びタッグを組んだもので、監督・脚本のジョー・タルボットは、これがデビュー作となった。ストーリーは、タルボットと主演のフェイルズが実際に体験したことを基にしているという。

 タルボットが、本作の根本について「多くの財産は持たなくても、かけがえのない友がいて、心の中には小さいけれど守りたい大切なものを持っている。それだけで人生はそう悪くないはずだ」と語るように、大筋はジミーとモントの友情物語なのだが、もう一つの核として、サンフランシスコという街の、変化の様子が映る。

 例えば、本作では、1967年にスコット・マッケンジーが発表した「花のサンフランシスコ」が反意的に歌われる。当時、フラワーチルドレンと呼ばれたヒッピーたちの賛歌だったこの曲が、今は全く違う響きを持って聴こえてくる皮肉。そして、スケートボードに乗ったジミーが、名物の急坂を一人寂しく下るシーンなどに象徴される街の衰退ぶりが目を引く。

 そんな本作は、インデペンデント映画や若手監督の登竜門と言われるサンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞を受賞するなど、すこぶる評判がいいのだが、ジミーとモントの関係性や、彼らに絡む人々に関する描写が曖昧なので、困惑させられるところがある。どうも本作は、ストレートではなく、ニュアンスや詩的な部分で、という変化球で勝負している節があるのだ。

 だから、見終わった後で、多少もやもやした気持ちが残ることになる。というわけで、『ムーンライト』同様、好みは分かれるのではないか、という気がしたのだが、多様性を反映させたこうした描き方こそが、ハリウッド映画とは一線を画する、新たなタイプの映画の真骨頂なのかもしれないと思い直した。(田中雄二)