■個性派には遅咲きの漫画家も多い

ならば30歳を過ぎたら漫画家デビューが不可能なのかと言えば、実はそうでもなかったりする。コアな作風でカルトなファンを抱える漫画家には、30~40代以降にプロデビューした人も少なくない。

メジャーどころの例を挙げてみよう。

・板垣恵介:32歳 代表作『グラップラー刃牙』
・矢口高雄:30歳 代表作『釣りキチ三平』
・三田紀房:30歳 代表作『ドラゴン桜』
・青木雄二:45歳 代表作『ナニワ金融道』

このほか、デビュー自体は若くても長期連載に恵まれず、30代を過ぎてからブレイクした『カイジ』の福本伸行氏、『神のみぞ知るセカイ』の若木民喜氏まで含めれば“遅咲き”の人気漫画家は案外多い。

彼らに共通するのは、剣と魔法のファンタジーや日常学園モノといった王道路線ではなく、一点特化型の突き抜けた作風が目立つところだ。絵柄も近年よく見かける萌え萌え美少女風は少なく、いろんな意味でコテコテに濃い。若木氏だけは例外的に萌え系の絵だが、やはり作品コンセプトはブッ飛んでいるため一点特化型と言ってもいい。

思うに、プロデビューが遅いということは「人生経験を積んでいる」メリットと「若いライバルよりも体力面などで劣る」デメリットが同居している。まったく同じコンセプトや作風で勝負するなら、自分より若い作家には勝てない。だから今までの人生で培ってきた“自分だけの色”で勝負するしかない……そういった覚悟が作品の圧倒的な個性につながっているのではないだろうか。

ちなみに遅い漫画家デビューといえば、なんと93歳(!)で単行本を出した竹浪正造氏が昨年話題になった。『はげましてはげまされて ~93歳正造じいちゃん56年間のまんが絵日記~』という非常に長いタイトルで、現在も書店やネットで購入可能。こつこつ書きためてきた絵日記がバラエティ番組で紹介され、書籍化にこぎつけたという経緯がある。普通に新人賞へ応募したわけでも編集部に持ち込んだわけでもない特殊なケースだが、この年齢になっても何かを表現する意欲を失わない姿勢には頭が下がる。

出版不況だの漫画離れだの言われても、下は13歳から上は93歳まで、日本の漫画家の層は厚い。どうかこれからも個性を存分に発揮して、私たち読者を楽しませて欲しいものだと思う。

 


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[ http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2800V_Y1A021C1000000/ ]

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。