『最強のふたり』を手がけたオリヴィエ・ナカシュ監督

フランスで大ヒットを記録した映画『最強のふたり』が9月1日(土)から公開される。車椅子生活をおくる大富豪と、彼を介護する黒人青年が深い友情を育んでいくまでを実話を基に描いた作品だが、成功の秘訣は“感動のドラマ”だけではないようだ。そこで、作品の成り立ちとこだわりを、オリヴィエ・ナカシュ監督に語ってもらった。

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20年近くコンビを組んで映画を撮り続けてきたナカシュ監督とエリック・トレダノ監督は、2003年に1本のドキュメンタリー作品に出会う。パラグライダーの事故によって頸椎を損傷し、四肢が動かなくなってしまったフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴの姿を追った作品で、観終わった後、ふたりは感銘を受けると同時に、ある疑問を抱く。「あの富豪の隣にいつもいる男は誰なんだ?」。フィリップが自動車に乗り込む時、移動する時、隣にはいつも同じ男がいたからだ。ナカシュ監督は「とにかく、どのシーンを見ても隣にその男がいるんだ。そこで僕らは彼らの関係が知りたくなったし、『この関係を映画にしたい!』と思ったんだ」と振り返る。

そこでふたりはリサーチを開始し、脚本作り、キャスティングと平行しながら実際にフィリップ本人にも会いに行った。事故に遭い、妻に先立たれたフィリップと、公営住宅で暮らす粗野な男アブデルは、なぜか共に行動し、唯一無比の友情を築いていく。「実際にフィリップの話を聞くと、ふたりの関係が本当に豊かで、彼らの証言は“宝の山”だったよ」。

ふたりが絶大な信頼を寄せるオマール・シーと数々の映画作家と仕事をしてきた名優フランソワ・クリュゼをキャストに迎えた監督たちは、数々の感動的なエピソードがつまった脚本を完成させ、撮影に入る。しかし、ふたりはあえてこの映画を“感動作”として撮影しなかったという。「僕らはこの映画をアクション映画のように撮ろうと思ったんだ。仮に音を消したとしても観客が画面に引き込まれるようなね。フィリップは事故によって四肢が動かない。だからカメラを動かし、カットを積み重ねることで、動かないフィリップを“動かし”て、つねに動き続けている“彼の頭の中”を表現したいと思ったんだ」。本作を観てまず感じるのは、躍動感と楽しさ、そして主人公ふたりの絶妙な掛け合いの面白さだ。「昔からある“バディ(相棒)ムービー”を参考にしたよ。性格が正反対のコンビが活躍するバディものの要素をアレンジして作品に取り込んでいったんだ」。

すでに公開された国の観客は、本作に対して感動の涙ではなく、歓喜の声と拍手で応えた。「相棒というのは、失敗した時は慰め合えるし、成功してどちらかが舞い上がっても、片方が冷静でいられる。そうして互いにやりとりしながらエネルギーを再生していくんだ」。感動や救いだけでなく、喜びと活力と再生に満ちた物語。映画『最強のふたり』は日本でもたくさんの笑い声と拍手で迎えられるのではないだろうか。

『最強のふたり』
9月1日(土)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開