苦手なメニューがある子は、手をつける前に食缶に戻し、その後、おかわりする子が食べるシステムになっていました。
それも残菜を減らすための1つの方策だそうです。

そして、前年のデータをもとに、同じ時期にどういうメニューを出し、生徒の食べはどうだったか、なぜ食べなかったのか、どこに原因があるのかなど、分析して献立をたてます。

メニュー自体に問題があるのかもしれないし、組み合わせに原因があるのかもしれない。いろいろな要因が考えられますが、次に献立をたてる時に、改善できる部分というのは必ずある。具材や調味料の配合を変えたり、メニューの組み合わせを見直したりしながら、給食を進化させていきます。

以前ナシゴレンを出した時も、最初は子どもの食べが悪かったのですが、お店に行って食べて勉強したり、何種類ものレシピを調べて、調味料の配合を変えて…と5回くらいリニューアルしたら、食べるようになりました。いろいろあるんですよ裏ワザが(笑)」

渋谷「各学校に栄養士は1人しかいないため、なかなか献立の悩みを学校内で相談しづらい環境にあります。そこで、月に1回、献立検討会などの場を設け、新人や経験の浅い栄養士が先輩から助言をもらったりして、問題をクリアにできるような形をとっています」

調理人の個性に合わせてレシピを変えていく

紺野「栄養士は材料の分量や料理の作り方を全部、調理員の方に指示をしていますが、調理する方によっても、少しずつ変更していきます。調理員さんによって、それぞれの火加減や炒め具合、煮詰め具合があるので、その方に合うようなレシピに変えていくんですね。

例えば、現在の方は素材の味を引き出すのがとても上手で、少ない調味料でも味が出るため、調味料を控えめにするようにしています。こういったことは、他の栄養士の方も、皆さん普通にやっていることだと思いますよ。足繁く調理員さんのところに行き、味見させてもらい、チェックします。

それで、次に同じメニューを作ってもらう際には、直した部分を反映させていくんです。そうするとだんだん、良くなってきます。データを蓄積して、どんどんバージョンアップしていくんですね。

他には、中学校では1人分のごはんの量が多い(1人約200g)ので、おかずの量も多くしたいところですが、タンパク質の所要量が1食あたり30gと決まっていて、肉や魚をたくさん出せるわけではないので、おかずの味つけに関しては多少濃いめにしています」

特別感のある食材が「食べたい気持ち」を引き出す

紺野「今日の給食では小松菜パンを出しましたが、去年の組み合わせではバターロールでした。その時はパンがかなり残ってしまったのですが、今日は結構食べていましたね。

こちらの小松菜パンは、区内にある『宇佐美農園』さんの小松菜パウダーを使用し、東京都では足立区でしか出せないパンなんです」

渋谷「授業の一環で区内の農園見学を行っている小学校では、『足立区の野菜って何?』と子どもたちに聞くと、全員が『こまつな~!』と手を挙げるくらい、区の野菜として定着しているんですよね。

紺野「『足立区だけしか食べられない』、そして『(区内で小松菜農家として有名な)宇佐美農園さんの小松菜を使っている』、子どもはそこにプレミアム感を感じるようで、意識が上がってよく食べます。だから、そういったものもどんどん活用して、たくさん食べてもらえるようにしています」

今回の取材で一番驚いたのは、ある家庭で普通に毎日食べているものが、ある家庭の食卓には今まで一度も登場したことがない可能性の高さ。そして、それを前提として給食が作られているということです。

魚は缶詰のように味が濃いのが好き、混ぜご飯より白ご飯の方が好き、果物は皮をむいてあれば食べる…。

そんな1人1人を大切に、新しい食体験を日々取り入れながら、全員が楽しく、おいしく食べられる給食を目指す…考えただけでも気の遠くなるような仕事をされている方々に、あらためて頭が下がる思いがしました。

お子さんが毎日食べている給食。皆さまもこの機会に注目されてみてはいかがでしょうか。

ライター/女子栄養大学 食生活指導士1級。学生時代からさまざまな体調不良に悩まされたこともあり、健康的な生活習慣について学び始める。現在は専門家を中心に取材活動を行い、おもに食、健康、美容、子育てをテーマにした記事を発信。乗りもの好きな1男の母でもある。