撮影現場での仲野太賀と佐藤快磨監督 ©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

こんなにスタッフに愛された新人監督に出会ったことがない

――そんな佐藤監督の演出や撮影スタイルで印象に残っていることは?

仲野 世の中には誰かが決めた平均点みたいなものがあるじゃないですか。佐藤監督は、社会に出て、その平均点にあと少しで届かなかった人をすごく愛おしく描くことができる人だと思っていて。

それは監督が人間に対して期待や愛情があるからだと思うんですけど、その足りないものをユーモラスに、ちゃんと愛を持って提示してくれるんですよね。

吉岡 うわ~、私が言おうと思っていたこととあまりにも一緒だからビックリしちゃった(笑)。佐藤監督は、本当にその足りない部分や、普通の人が見落しちゃったり、人がどうでもいいと思って勝手に切り捨てるようなことでも絶対に切り捨てない。

何ならゴミ箱から拾って、「いや、これ、まだ使えるよ」って言いながら、くしゃくしゃになった紙を伸ばしてメモ帳にしたり、手紙を書くことができる人という印象があります。私にオファーしてくださったときもこんな風に期待してくれてるんだ~と思って、すごく嬉しかった。

完成した作品を観ても本当に優しい人だから撮れる映画なんだなって思いましたし、言葉や物の選び方に佐藤監督を感じて、一緒に過ごした時間を思い出しました。

仲野 佐藤監督は今回の『泣く子はいねぇが』が商業映画デビュー作ですけど、僕はこんなにスタッフに愛された新人監督に出会ったことがないです。

みんな脚本を信じて、監督を信じていたから、この映画ができたと思うんだけど、やっぱりそれぐらい魅力的な人なんですよ。

吉岡 自分と同年代にこういう才能のある人がいらっしゃるのは嬉しいし、今回出演できて本当に誇らしい。

仲野 いや、同年代の映画監督に佐藤監督がいるっていうのは本当に心強い。これ以上心強いことはないと僕は思っています。

ラストシーンは現場もスゴかった

――吉岡さんはいま、佐藤監督は普通の人が見落してしまうものを拾い上げるって言われましたが、その具体的な例はありますか?

仲野 そんなの何回もあったよね。

吉岡 いっぱいある。でも、私がいちばん好きと言うか、心に残っているのは、たすくが娘のお遊戯会を観に来るシーン。

たすくは、あそこで自分の子供を見つけられない。父親なのに、自分の娘の顔が分からないなんて、切な過ぎるじゃないですか。その切なさ具合が絶妙で、でも、あり得ることですよね。そこを佐藤監督は脚本に書かれていたから、本当にスゴいと思いました。

仲野 あのシーンは現場もスゴかった。僕も成長した娘をどの子が演じているのか分からない状態で撮影に臨んでいたから、あのお遊戯会のシーンでは実際にどの子が自分の娘なのか分かってないんですよ。で、その状態から、あのラストシーンに向かっていったから凄まじかったです。

――仲野さんは脚本を最初に読んだ時に、あのラストシーンをとにかく演じたいと思ったって言われてましたものね。

仲野 あのラストシーンは現場もスゴかった。どんなことが起こるのか全然想像できなかったし、実際に演じたときも、言葉ではなかなか言い表せられない複雑な感情になりましたから。

吉岡 いや~、あのシーン、実際には短い一瞬の時間ですけど、体感的にはすごく長かったですね。目で会話するってこういう感覚なんだって、撮影が終わってからしみじみ思いました。

ふたりが語ったラストシーンの詳細は、本作をこれから観る方々の楽しみを奪ってしまうので、ここでは触れない。だが、佐藤監督が脚本を書く際に映像が真っ先に浮かんだというその一連は、仲野太賀と吉岡里帆の魂と魂がすごい熱量でぶつかり合う映画史に残る名シーン。

たすくとことねの切実な想いが、セリフではなく彼らの行動からひしひしと伝わってくる映画ならではの表現も秀逸だ。その衝撃と感動を映画館で体感し、この機会に「大人になるとは?」について考えてみるのもいいかもしれない。

仲野太賀 ヘアメイク:高橋将氣/スタイリスト:石井大
吉岡里帆 スタイリスト:Maki Maruko/ヘアメイク:百合佐和子(SHISEIDO)

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。