ミュージカル・ロマンス『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』開幕 ミュージカル・ロマンス『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』開幕

ミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより~』が9月2日、東京・シアタークリエにて開幕した。出演は井上芳雄、坂本真綾。『レ・ミゼラブル』の演出家ジョン・ケアードが脚本・演出を担当し、2009年にアメリカで初演された“ふたり芝居のミュージカル”の、日本初上陸だ。

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孤児院に暮らす少女ジルーシャはある日、院の理事のひとりから、大学へ進学するための奨学金を援助しようという手紙を受け取る。条件は月に一度、彼に手紙を書くこと。一度だけシルエットで見た手紙の主はまるで足長蜘蛛のように足が長く、ジルーシャは彼を足長蜘蛛――ダディ・ロング・レッグズと呼び慕っていく……。日本では非常に良く知られている『足ながおじさん』の物語が、とても可愛らしく瑞々しいミュージカルになった。土や緑の匂いがしそうな素朴で優しい音楽、さらにセットも本に囲まれた書斎、木の温もりが伝わりそうな壁に床、大きなトランク…と、この物語を愛する少女たちが憧れそうな世界だ。

登場人物はジルーシャと、ダディの正体であるジャーヴィスのふたりだけ。原作と同じく、ジルーシャがダディに宛てて書いた手紙の形をとって物語が進行していく。ゆえにジルーシャを演じる坂本真綾は出ずっぱりの大奮闘だ。孤児院育ちで、大学でも上流の教育を受けてきた少女たちと会話が通じなかったりと、コンプレックスはあるものの、それが卑屈な方向に表出されることはないジルーシャ。聡明で独創的、あふれ出る言葉にはユーモアがあり、彼女の目に映る世界はキラキラと輝いている。そんなジルーシャを坂本は伸び伸びと表情豊かに創り上げている。膨大なセリフも隅々までクリアで気持ちよく耳に届き、ジルーシャはこの人以外にはいないのではと思うほどにぴったりだ。

一方でジャーヴィスは、上流階級に育った青年。ジルーシャの文学的才能を伸ばすために援助を申し出たものの、予想以上の才気を見せる彼女の手紙、そして彼女自身に惹かれていく。ただし「きっと年寄りに違いない」というジルーシャの思い込みで作り上げられた“ダディ”像と自身とのギャップに苦しみ、彼女に打ち明けることができない。ジャーヴィスを演じる井上芳雄は、その戸惑いや、嫉妬心から生まれるいじわるな顔なども丁寧に演じ、“大人の初恋”とでも呼べそうなフレッシュな恋心を見せていた。

劇中の「チャリティー」というナンバーで、ジャーヴィスは“誰が誰を助けている?”と歌う。ジャーヴィスはジルーシャに援助をしたが、彼もまたジルーシャから大きなものを受け取った。ジルーシャも与えられたものに甘んじず、自らの手で道を切り開いていく。ロマンチックなラブストーリーでありながら、人生を輝かせるヒントが散りばめられたミュージカル。小説同様、長く愛されていくに違いない。

東京公演は9月19日(水)まで。その後9月22日(土)に新潟、9月26日(水)に大分、9月28日(金)・29日(土)に大阪、10月3日(水)に福岡で上演される。