無線LAN(Wi-Fi)に対応し、Wi-Fi経由でインターネットやホームネットワークに接続できるデジタル製品が増えている。無線LAN環境の構築に不可欠な無線LANルータ(無線LAN親機、アクセスポイント)の価格は、ここ1~2年でさらに値下がり、最も安い機種ならいまや3000~4000円程度で購入できる。最上位機種でも親機単体なら1万円台前半からと、それほど高くない。

先日、私の夫が、遠方に住む学生時代の友人から「新居への引っ越しを機に無線LANを導入したいが、何を選べばいいのかわからないので教えて欲しい」という質問を受け、いろいろとアドバイスした。その際、「AOSS」や「らくらく無線スタート」「WPS」などの簡単設定技術が登場し、設定作業自体は「かんたん」になったものの、導入のハードルはまだ高いと痛感した。今回は、アドバイスした内容をもとに、私流の「無線LAN機器の選び方」をまとめた。

●まずは「つなぎたい機器」と「目的」をリストアップしよう

無線LAN対応機器は、主に「無線LAN親機」を通じてインターネットに接続するものと、ワイヤレスホームネットワーク(家庭内ネットワーク)内で使用するものとに分かれる。最近は、有線LANには対応せずに、無線LANだけに対応した「Wi-Fiオンリー」の製品(下記B群に該当するもの)が増えている。また、無線LANルータがなくても、Wi-Fiを利用できる製品も登場している。ひとことで「Wi-Fi対応」といっても、できることや仕組みは製品によってさまざまだ。

【A群:無線/有線LANの両方(※)に対応する主なデジタル製品】

ノートPC、デスクトップPC、液晶テレビ、ブルーレイディスク(BD)レコーダー、BDプレーヤー、プリンタなど

※無線LANはオプション対応の場合を含む

【B群:無線LAN(Wi-Fi)だけに対応する主なデジタル製品】

スマートフォン、タブレット端末、携帯型ゲーム機(ニンテンドーDS、ニンテンドー3DS、PlayStation Vitaなど)、電子書籍リーダー(kobo Touch、Readerなど)、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、プリンタ、ポータブルHDD、プロジェクター、スキャナ、オーディオシステムなど

まず、利用したい無線LAN対応機器をリストアップして、それらの機器を活用するためにホームネットワークが必要かどうか確認しよう。例えば、離れた部屋にあるPCで録画した番組をリビングに設置した液晶テレビで視聴したいなら、ホームネットワークの標準基準「DLNA」に対応したPC、テレビと、ホームネットワークの構築が必要になる。

ホームネットワークは、ケーブルを介した有線LAN接続でも問題ないが、無線LAN接続のほうが使い勝手がいい。「ワイヤレスホームネットワーク」と、ひとくくりにされることが多いが、「無線LAN」と「ホームネットワーク」はもともとは別モノなので、勘違いしないようにしよう。

●スマートフォンユーザーは無線LANは必須、ぜひ導入を!

先に挙げた「B群」に該当する製品をすでに持っているか、これから購入するつもりなら、ぜひ「無線LAN」を導入したい。B群のうち、通信機能を備えたスマートフォン・タブレット端末しか所有していない方は、外出中と同じように通信回線を使えばいいと思うかもしれないが、通常、携帯電話網のデータ通信より無線LANのほうが速度が速い。光ファイバーやADSLなどの高速ブロードバンド回線を導入済みなら、パケット通信量を抑え、携帯電話回線の負荷を減らすため、自宅ではWi-Fiを利用するようにしよう。

●「有線LANの置き換え」だけならメリットは少ない

一方、今のところ「A群」に該当する製品しか所有しておらず、「B群」に該当する製品の購入予定がないなら、無線LANを導入するメリットは「配線がすっきりする」「部屋中のどこでも使える」くらいしかない。新たに「B群」の製品を購入するまで、有線接続でもこと足りる。

無線LANは、規格によって最大通信速度が異なり、親機と子機(無線LAN対応機器)が同じ規格に対応していなければ通信できない。現在の無線LAN規格の主流は、2009年9月に正式規格として認定された理論値100Mbps以上(最大450Mbps)の「IEEE 802.11n」だが、ほとんどの製品は、最大54Mbpsの「IEEE 802.11g」や「IEEE 802.11b」など、他の規格にも対応している。子機側が「11n」に対応していれば、最も高速な「11n」を利用しよう。

なお、現在、「11n」の約1.3倍の高速で通信できる次世代無線LAN規格「IEEE 802.11ac」の策定も進められており、すでに「11ac技術」を採用した製品が発売されている。無線LANの規格は、技術革新に応じて一定の期間で切り替わっていくものだと認識しておいたほうがいいだろう。

●家の中のLANポートの数と場所、手持ちの無線LAN対応機器の規格をチェック

相談を受けたときは、具体的な機種選びの前に、何をつなぎたいのか、何をしたいのか、そして家の構造はどうなっているのかをたずねた。彼の場合、「手持ちのノートPCを、1・2階のどの部屋でもインターネットにつないで、お気に入りのインターネット動画番組を見たい」ということだった。

LANポートは、1階と2階の計2か所しかなく、希望をかなえるためには無線LANを導入するしかない。また、手持ちのノートPCは「11n」に対応していないので、親機だけでなく、子機も必要だとわかった。そこで、「IEEE 802.11n対応の無線LAN親機とPC用子機のセット」の購入を勧めた。

●レンタル? 購入? メリットは一長一短

無線LANを導入するにあたって、機器を購入せず、FTTHサービス会社などが提供する有料・無料のレンタルサービスや無料プレゼントキャンペーンを利用する方法もある。例えば、ソフトバンクモバイルは、提供条件を満たす希望者に無線LANルータを無料で提供している。KDDIも、今年2月から、宅内向け無線LAN機器の有料レンタルサービスを開始した。レンタルサービスのメリットは、機器を選んだり買ったりする手間がかからないこと。無料レンタルやプレゼントなら、費用も発生しない。対して、機器購入のメリットは、自分で好きな機種を選べる点にある。長期間、使い続ければ、有料レンタルよりも安くすむ。それぞれのメリット・デメリットとトータル費用を比較して、自分に合ったほうを選ぼう。

●スマートフォンだけで簡単に設定できる機種も!

量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、無線LAN親機・親機とセットモデルに限定した2011年のメーカー別販売台数シェア1位は、バッファロー。2012年も、8月末までの累計で、バッファローは、前年度と同水準の高いシェアを獲得し、他のメーカーを大きく引き離している。バッファローを筆頭に、NEC、ロジテックなど、上位5社だけで全体の約97%を占め、メーカーの選択肢は少ない。

バッファローは、今年6月、従来の「AOSS」とは異なり、パソコンがなくても、スマートフォンやタブレット端末などの対応端末だけで簡単に初期設定ができる簡単設定技術「AOSS2」を発表し、対応する新製品を発売した。「AOSS2」は、無線LANのこれまでの「難しい」「設定が面倒」というイメージを覆す画期的な新技術。PCでも、従来と違い、ソフトウェアをインストールせずに簡単な手順で設定でき、スマートフォンなどの対応端末を持っていなくてもメリットは大きい。

無線LAN親機を購入する際は、価格より、使い勝手を左右する「設定のしやすさ」を重視し、次に「最大通信速度」「電波が届く距離」「USBポート搭載などのプラスαの機能」でメーカーと機種を絞り込み、最後に、親機単独か、子機とのセットかで選べばいい。スマートフォンでの設定のしやすさを考えると、現時点では、バッファローの「AOSS2」対応機種がベストだろう。なお、USB接続タイプの無線LAN子機はサイズが大きく、操作時にかなりじゃまになるので、手持ちのPCが「11n」に対応していない場合は、子機とのセットを買うより、「11n」対応の最新機種への買い替えをオススメしたい。

●新しい「デジタルスマートライフ」はWi-Fiとともに……

無線LAN(Wi-Fi)搭載機器は、さまざまなジャンルに広がっている。すでに、アプリを使ってスマートフォンで遠隔操作できるエアコンが発表されているが、将来は、その他の生活家電やヘルスケア用品などにも、ごく標準的に搭載されるかもしれない。すべてがネットワークでつながり、より便利に、より楽しく生活できる新しい「デジタルライフ」は、これらWi-Fi対応製品の広がりと、それをコントロールするスマートフォン、タブレット端末、PCなどをひとくくりにした「スマートデバイス」が鍵を握りそうだ。(BCN・嵯峨野 芙美)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。