『ジェーン・エア』稽古風景より 松たか子 『ジェーン・エア』稽古風景より 松たか子

シャーロット・ブロンテの原作小説を舞台化したミュージカル『ジェーン・エア』。演出家ジョン・ケアードが新演出に挑んだ3年前の日本初演は“ブロードウェイ版を越えた完全版”と絶賛を受け、多くの観客を魅了した。ひたむきに愛を貫く主人公ジェーンを全身全霊で表現した松たか子は、本作で第35回菊田一夫演劇賞を受賞。相手役ロチェスターを演じる橋本さとしの陰影ある存在感も深い余韻となった。10月、その感動の舞台が帰ってくる。一部キャストの変更はあるが、ほぼ同じメンバーが揃った待望の再演、その稽古初日の様子を取材した。

『ジェーン・エア』チケット情報

稽古開始前の稽古場では3年ぶりの再会を喜び合うシーンがあちらこちらで見られ、またひとつの作品に向かおうと団結する高揚感が漂っていた。まずは顔寄せ行事から始まり、スタッフ、キャストを紹介。その後は台本の読み合わせが始まるかと思いきや、全員で輪を作ってぐるぐると回る軽いジョギングがスタートした。初演時も行っていたウォーミングアップだそうで、ジョギングからストレッチへと続く一連の動きを、皆慣れた様子でこなしている。稽古初日とは思えない呼吸の合った安定した空気感に、全員が共有する再演への高い志がうかがえた。ジョン・ケアードもその輪に加わって体を動かしているが、ふと足元を見ると……。以前の取材で松が「ジョンさんはいつも稽古場で裸足。足の裏を真っ黒にしているんです(笑)」と教えてくれたとおり、ケアードはずっと素足で稽古場を歩き回っていた。そんな演出家の熱い姿勢が示唆するように、“初日は軽い思い出し稽古だろう”との取材陣の予想を覆す、集中度の高い稽古が進行していった。

入念な発声練習を終えていざ、セリフをまじえた歌稽古に突入。魂を絞り出すような橋本の「ジェーン!」という物悲しい叫びに、初演の荒野の風景が一瞬にして呼び覚まされる。両親を亡くした幼いジェーンをひきとって虐待する叔母のリード夫人に扮するのは、初参加となる阿知波悟美だ。その重く険しい声の響きが稽古場全体をピリリと引き締める。新たなリード夫人の誕生をケアードが深くうなずきながらみつめていた。ジェーンが過ごす教育施設ローウッド学院の院長に扮する壤晴彦が、さらに厳格で冷酷な声を響かせて緊張度を押し上げる。苦しい日々の中で自由を心から探し求めるジェーンの思いを松が力強く絶唱すると、周囲から感嘆のため息とともに拍手が沸き起こった。

途中、歌詞にある「許し」という言葉に込められた意味について話し合う場面も見られた。ジェーンを始めとする登場人物たちの葛藤、人生の選択、そして信仰に対する考えについて再度、全員の理解を深めようと熱のこもった稽古が続く。ジェーンが持ち得た“愛する勇気”とは何なのか。その答えは、さらに精度を上げた再演舞台が教えてくれるに違いない。

公演は10月6日(土)から28日(日)まで東京・日生劇場にて。その後福岡・博多座でも上演する。

取材・文:上野紀子