松永天馬 撮影:市村 岬

松永:イメージが先行しているということでしょうか。「ヒップホップらしさ」みたいな。確かにDOTAMAさんたちが新しく見える一方で、ヒップホップはファッションやマナー先行の、ともすれば保守的な音楽にも見える。

DOTAMA:どのジャンルでもそうですが、「王道」のスタイルを支持する方が、どの世界も多数派だと思います。僕も、本っ当にたまにですが、未だに言われます。「DOTAMAはヒップホップじゃねぇ」「あいつはワック(偽物)だ」と。ただ「王道」を好きな人にも楽しんでもらえて、かつアウトサイダーな表現、というのはやれるはずです。

それを念頭に、自分は自分の信じるかっこよさを、研ぎ澄ましてやっています。

ただ、全然まだまだで、もっともっと頑張らなければとも思ってます。ここ数年、CMやドラマ出演等、色んなお仕事を受ける上で、自分なりの「かっこよさ」「ヒップホップ」を強く念頭に置きながら、やらせてもらっています。

ですし、音楽以外のいろんなお仕事をやらせてもらっていると、自分の中にある「かっこよさ」や「ヒップホップ」の核、価値観がより明確になる瞬間がある気もしてます。それをライブや作品に還元し、発表させてもらえる。本当に有り難いです。

松永:たしかに。昔のラップブームと今のフリースタイルが牽引するブームの一番の違いは、家族愛だとかリスペクトだけじゃなく「怒り」を表現できるようになったことだと思っていて。

海外における元々の発祥は何らかのアゲインスト、つまり「怒り」からくる感情だった訳ですけど、何故か日本ではそれがなかなか一般層まで浸透しなかったじゃないですか。いまようやくそれが届くようになって、必ずしもマッチョ的な発想でない、ナードや本当の意味でのマイノリティの言葉が伝わるようにもなった気がする。

「(ラップやヒップホップは)今の情報が多い時代にこそ楽しんでもらえる表現」(DOTAMA)

DOTAMA:話は変わりますが、松永さん、MCバトルはご覧になっていますか?

松永:「詩のボクシング」(※自作の詩を朗読しあって判定で勝敗を決める言葉の異種格闘技イベント。ちなみに松永氏は2014年全国大会など、数回に渡ってチャンピオンとなっている)とすごく近いなと思ったんですよ。

かつて、「詩のボクシング」も言葉のブームを牽引した時代がありました。皆さんもうお忘れになってるかもしれませんが、20世紀の終わりから数年「ポエトリーリーディングブーム」があったんです。僕はちょうど10代のときに「詩のボクシング」にはまって、その体験が後の生き方を決めたといっても過言ではない。

DOTAMA:僕も「詩のボクシング」は拝見したことがあります。新宿MARZさんで開催されていた「SSWS(※シンジュク・スポークン・ワーズ・スラム “ことばと声を使った表現ならどんなスタイルでもOK”というトーナメントイベント)」というイベントもあったじゃないですか。

松永:ありましたね~。よくご存知ですね。

DOTAMA:僕出てました。

松永:えっ! そうなんですか。

DOTAMA:19か20歳くらいのときに。当時、栃木でサラリーマンをやっていたんですけど、東京のいろんな文化を見たいと思っていた時に、たまたま「B BOY PARK」でMC ATOM(SPIRITUAL JUICE)さんから「DOTAMAも遊びに来たら?」と、フライヤー渡されたのがきっかけで。

松永:確かにその頃、ラッパーの人たちも詩のイベントによく参加してました。ジャンルレスに言葉のプロが集まるような磁場が当時のポエトリーリーディングにはあったんです。

松永天馬/DOTAMA 撮影:市村 岬

DOTAMA:ラッパーや詩人とか落語家の方、いろんな方が出てて、すごかったです。小林大吾さんも出場されてましたね。純粋な詩人から、たまたま遊びに来たキャバ嬢みたいな方がノリで出て、そのまま決勝まで行くときもあって。会場のお客さんにグサッと刺さる言葉が吐けたら優勝できる、そんなイベントでした。「言葉」をより「表現」として意識し、勉強させていただきました。

松永:「詩のボクシング」も元々凝り固まった「詩のスタイル」を崩すために始まったところがあるんです。

海外では人前で朗読をするのは珍しくなくて、でも日本では現代詩が確立したあたりから、詩というものは文字媒体が基本で、まず「黙読」するものとして、ずっと紙の中に閉じ込められてしまった。だから朗読を復権させようという動き自体に反発する意見もありました。詩に対して高尚なもの、崇高なものというイメージを持ってる人たちからは「詩で勝敗を決めるなんて」みたいな批判もあったし。

いわゆるポエティックな詩人に対してユーモラスな朗読をする人が勝ったりとかすると「けしからん!」みたいなことを言う人たちもいて。それは多分「DOTAMAはヒップホップじゃない」ってのと近いのかもしれません。

DOTAMA:そうかもしれませんね。

松永:ただ、結果的に勝敗を決めるものになると、スタイルを超えて面白いものが最終的に残っていくから、だんだん言葉が先鋭化していくんでしょうね。

DOTAMA:自分も含め、最前線で頑張ってるラッパーやヒップホップアーティストは全員分かってると思うし、「当たり前だろバーカ!」と怒られてしまうかもしれませんが、ヒップホップは、もっともっと盛り上がっていくと思うんです。

松永:と、いいますと?