「お客さんの反応まで含めて、表現やエンタメの完成型になってきている」(DOTAMA)

松永:SNSにいる人たちは顔を隠して意見を言えることもあって、顔や肩書を晒して活動するアーティストは標的にされやすい。今、色んな企業のCMが人権侵害、差別表現と言われて「不快にしてすいませんでした」って半日で取り下げるとかあるじゃないですか。

企業の広告という難しさはありますが、基本的に表現というものは自由で、作り手の人格や、今まで培ってきたものが出るわけだから、少なからずその人の中にある偏見が出てくるのは致し方ない。

作品でさえ、いちいちそういうハラスメント的にどうなのかというフィルターにかけられて、「ポリコレ棒(”ポリティカル・コレクトネスを過剰に振りかざす人”という意味のネットスラング)」で殴られてしまうと、何も表現できなくなっちゃう。

だから「ポリコレ棒」なんて叩き折ってやりますよっていう気持ちで日々作ってますよ。

DOTAMA:そうですね。その気持ち、分かります。ただ、顔の見えない意見だからこそ、いただいて嬉しいこともありました。5年前に『リストラクション』(DOTAMA×USK)という作品を出させてもらった時に、Twitterの140文字で「今回のDOTAMAの作品には本当にがっかりだ」から始まって、1曲ずつレビューして、10個くらいのツイートをしている方がいて。

松永:(承前)ってツイートするやつだ!

DOTAMA:もうそれだけ書いていただいている時点で「ありがとうございます!!」と言ってしまうくらい嬉しくて。ケータイの前で頭を下げました。顔が見えないからこそ、色々言っていただけるからこその喜びというか。

松永:聴き込んでくれてるってことですもんね。ただ、僕のやっていた「詩のボクシング」にしても相手をdisったり叩かれたりして、悔しい気持ちがあるけど、基本的に表現はステージ上で完結するべきとは思ってるんですよ。相手やリスナーに対する気持ちも何もかも、出来るだけ表現の中で余す所なく見せたい。SNSだと、それがいつまでもグダグダ続いて、言葉にまったく重みがなくなってる部分はある。

松永天馬/DOTAMA 撮影:市村 岬

DOTAMA:例えばミュージシャンは、曲の中でカッコイイ表現や唸る表現、その反対では、不快な表現やナンセンスな表現をするじゃないですか。それそのものが、アーティストからリスナーの皆さんへのコミュニケーションの初手だと思うんです。そこからどうお客さまに参加してもらうか。

音楽以外のエンタメもそうかもしれませんが、「優れた表現を聴いてもらう、見てもらう」までで需要と供給が完結していたのが、「聴いてもらい、見てもらい、どう反応してもらうか」っていうお客さんの反応まで含めてが、表現やエンタメの完成型になってきている。2010年代、今よりもっと前からあったのかもしれませんが。

松永:「コミュニケーション」が、音楽ビジネスの中心になっていますよね。楽曲自体も、「その曲によって何が喚起されるか?」というコミュニケーションのネタになっている部分もあると思います。こちらは語りすぎない、作りすぎないほうが大事だったりもする。

DOTAMA:楽しいですしね、ひとりで作り込んだものを、聴いてもらってハイ終わり、より、色々意見をいただく方が。アホなことを歌って「なんじゃそりゃ!」ってお客さんに突っ込んでもらったり。SNSが発達して、ダイレクトに反応をいただけるからこその楽しさだと思います。

ただ、何度も言ってますが、お客さんとのコミュニケーションを深くした代わりに、お客さんにも言葉の責任をより負担するようになった。受け取る我々の柔軟さも。そういうやり取りも含め、やりがいがものすごくあるなと思います。

松永:ですね。そこがアーティストの矜持ってものでしょう。お客さんにはエンタメとして受け止めて欲しい。ただし、必ずしもお客さんがサービスを受けるんじゃなくて、不快になったり怒りを感じるのも含めてエンタメというか。

僕は言うなれば、お客さんを気持ち悪くさせたくて『ラブハラスメント』という作品を作ったんです。不快にさせることもエンターテイメントになり得るんじゃないか、そういった問いかけがしたい。

DOTAMA:自分は表現の根幹にMCバトルがあるんですが、バトルでの発言も面白さ、格好良さに昇華できれば「dis」になるし、できなければただの「悪口」になる。それは作品でもですが、お客さまに楽しんでもらってこそだと思います。

松永:それは芸にできるかどうかってことなんですよね。そこにスキルやセンスが問われるといつも思ってます。不快である、気持ち悪いという感情をいかに面白くできるのか。

――そしてDOTAMAさんの「ディスり過ぎてごめんなさい。謝罪会見ツアー」のファイナルに松永さんも出演されるということで。

松永:(ステージで)共演しちゃいますか?

DOTAMA:何をしましょう。

松永:僕が慣れないフリースタイルを?

DOTAMA:でも天馬さんはラッパーじゃないですから。強要は出来ません。ラッパーにでさえ「ちょっとフリースタイルしてみてよ」というのは、セクシー女優さんに「ちょっとオッパイ揉ませてよ」というようなものです。

松永:ラップハラスメントだ! でも一緒に何かやりたいですね。僕は詩の朗読で対抗するってどうですか。

DOTAMA :まだ準備する時間はありますね。

松永:僕はDOTAMAさんとステージ上でまぐわいたいですよ。ってこれもラブハラスメントですね。

DOTAMA:ありがとうございます(笑)。

松永天馬/DOTAMA 撮影:市村 岬

ライブ情報

「ディスり過ぎてごめんなさい。謝罪会見ツアー」渋谷公演

日時 8月13日(日)
会場 渋谷WWW
会場 / 開演 18:00 / 19:00
出演 DOTAMA × Kota Yamaji(VJ) / 松永天馬と自殺者たち(アーバンギャルド)
チケット 前売3500円 / 当日4000円(税込)※1DRINK別