■原作を補完する要素もあったドラマ

ボーイズ・オン・ザ・ラン DVD-BOX
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連ドラの最大の武器は、その放送時間の長さでもある。ということで、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のドラマ版は、原作の最初から最後までを可能な限り描いていた。ただ、本当のヒロインを後半だけに出すというのはさすがにムリなので、大巌花(平愛梨)も初回からコンスタントに登場。田西(丸山隆平)にボクシングを教える職場の先輩・鈴木(陣内孝則)が、家庭環境に恵まれない花や小学生の脩(浦上晟周)の面倒を見ているという形で、田西が序盤から花と脩に会うシチュエーションを作っていた。

テレビということで、放送できない単語などはもちろん使っていないのだが、深夜枠なので下ネタもそれなりに描いていたと思う。田西のボクシングジムの先輩・吉良は登場せず、田西と吉良で韓国の置屋街へ行くシーンは全面カットだったが、それはさすがに仕方ないだろう。ただ、原作における吉良のデビュー戦を田西が見るシーンは、田西が青山と戦う勇気が出るキッカケにもなる場面だったので、吉良の不在はちょっと残念でもあった。

そのかわり、大きくスポットが当たったのは、上田竜也が演じていた安藤龍。原作では入門前にケンカをして、花がトレーナーを務めるジムでは一度も練習することがなかった人物だが、ドラマでは彼の転落と成長もくわしく描かれていた。もともとボクシングが得意な上田竜也だけに、練習風景にも迫力があって、彼の存在は大きかったと思う。

ていうか、よく平愛梨も上田竜也の練習相手を務めたなあ、というのが率直な感想。花は、ストーリーの序盤、ヌードモデルではなく、コスプレモデルという設定に変わっていたが、ボクシングトレーナーとしての動きはかなり立派だった。

アンチヒロイン・ちはるを演じていたのは南明奈。映画版の黒川芽以とは違う可愛らしさと怖さが出ていて、これはこれで良かったと思う。このちはる再登場のシーンが原作とは少し違っていて、ちはるが意識的に花に近づいたことがハッキリと描かれていた。だから余計に壊れたちはるが強調されたわけだけど、それだけに、最終回のインタビューカメラの前でみせた涙が印象的だった。あのシーン自体は原作のエピローグにもあるのだが、レポーターの最後の質問と、それに対するちはるのリアクションはドラマのオリジナルだ。後悔が救いとなるかどうかは、その後の人生次第で決まる。田西がそうであったように、ちはるも立ち止まらずに走り続けて欲しいと思えるまとめ方だった。

その後をドラマでしっかり描いたのは、青山(斎藤工)のパーツ。原作でも青山は、腫瘍性大腸炎に大腸がんを併発し、人工肛門をつけた姿で田西の前に再登場するが、その後は出てこない。その青山を、ドラマでは最終回まで登場させていた。やはり、青山は単なる敵役ではなく、田西の人生に大きな影響を与えるライバルでもあるので、徹底的に田西が関わっていった展開は良かったと思う。青山にもさわやかさの影に隠れた見えない努力はあるし、その自信からくる非情な冷酷さもある。そういう二面性を出す意味でも、斎藤工のキャスティングは成功だったんじゃないだろうか。

そして何より、ドラマで秀逸だったのは、刑務所での面会シーンだ。ずっと空回りだった田西が、逃げずに少しずつ他者との関わりを持ち、田西自身が必要とし、必要とされていった。その結果が、あの次から次へとやってくる面会者たちに現れていて、かなりグッとくるものがあった。花と脩が迎えに来るというラストは原作と同じだが、あの面会シーンを入れたのは良かったと思う。

ドラマ化がむずかしい描写も多い原作だっただけに、どこをどう削り、どう変更して描くのか興味深かったが、ひとつの形としては成功したドラマだったと思う。原作が好きだけどドラマはパスしてしまった人、ドラマは面白かったけど原作は読んでない人。そういう人は、改めて見比べてみると、また別の面白さが発見できるかもよ。

 

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たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。