竹原ピストルという男をご存知だろうか。

1999年、北海道の大学に在学中に知り合った濱埜宏哉と、弾き語りデュオ「野狐禅」を結成。その後上京し2003年にメジャーデビュー。2009年に解散し、現在はソロ活動を続けているミュージシャンである。また、本名の竹原和生名義で俳優業も行っている。

ピストルという名前から何やら暴力的な印象を受けがちだが、そのイノセントで素朴な笑顔を見ると、頭の中で想像する、ぶっそうな“銃”は、おもちゃのピストルへと姿を変える。周りを笑顔にする愛すべき存在なのである。

そんな竹原ピストルの名前を、最近メディアで目にする機会が増えてきている。
松本人志という超強力な援軍を得たためだ。今年公開された「さや侍」では松本監督曰く“重要な役”に抜擢され、主題歌も担当した。11月5日から放送スタートしたNHKの「松本人志のコントMHK」でも竹原の歌がエンディング曲として起用されている。松本人志の惚れこみようは相当のようだ。「才能のある人が認められていない」「僕が何もしなくても彼(竹原)は日の目を見ると思いますけど、ちょっとでも手助けできたら……」とは松本の弁。

かく言う僕も、実は竹原ピストルの才能に魅せられたファンのひとりである。出会いは2002年の夏。当時所属していた事務所・オフィスオーガスタの夏フェス「オーガスタキャンプ」のサブステージで、無骨にギターをかき鳴らす竹原の姿に目は釘付け。一発で野狐禅のファンになった。

翌2003年のメジャーデビュー時には、当時の「ぴあ中部版」の記事誌面で大きく報じ、デビューイベント「ぴあデビューレビュー」にも招いてライブを披露してもらった。おこがましいが、松本人志と同じく、竹原の才能を少しでも多くの人に知ってもらう手助けをしたかった(影響力は天と地ほども差があるが…)。

その後、残念ながら野狐禅は解散してしまうが、竹原の生き様は何ら衰えていない。原点に戻って、精力的にライブを重ねている。そもそも竹原(野狐禅)の音楽は万人ウケしてヒットチャートに上るような類いのものではない。本当に聴きたい人のもとへ直接届けてまわる、ライブ中心の泥臭い活動が相応しいのだ。2011年、竹原はなんと年間300本近くのライブで全国を駆け回っている。それだけ聴いてくれる人がいるということである。今、これまでで最も充実した音楽活動が実践できているのではないだろうか。

竹原ピストルの魅力は「独特な詞の世界」と、それを歌で伝える「表現力」にある。とくに詞の素晴らしさは多くの人の認めるところであり、詩人と言っても差し支えないかもしれない。弱い人間、ダメ(だと自分で思っている)な人間の繊細な心情を大胆な言葉で綴る。余人には思いつかないユニークな比喩などのレトリックも、竹原ならではだ。

ここで、思い出深い野狐禅のメジャーデビュー曲「自殺志願者が線路に飛び込むスピード」を紹介したい。この曲、その衝撃的なタイトルから、一部のラジオ局で放送自粛曲になった経緯がある。これは“自殺”という言葉からの短絡的な判断だったと言わざるを得ない。詞の内容をまったく見ずにタイトルだけで×印を打ってしまったのだ。決して自殺志願者が死へ向かうネガティブな内容ではなく、逆に“生”への強い意思を歌った曲であり、竹原流のラブソングでもある。
とくに竹原らしさがにじみ出た、詞の冒頭部分をご紹介しよう。

「せっかく空を自由に飛べるようにこんな立派な白い羽根がついているのに、こんなところに迷い込んできたら意味がないじゃない、バカだねぇ」
君はそう言うと便所の小窓を開け、ふわふわ白い羽根のついたタンポポの種子をそっと逃がしてあげるのだった
ケツをかきながら隣に突っ立っている僕を見つめて
「あんたも同じだよ」と、僕の睫毛についた目ヤニを指で弾いた

そして詞のラストはこうだ。

自殺志願者が線路に飛び込むスピードで
生きていこうと思うんです

グッときたあなた。竹原ワールドへようこそ。
このユニークな才能を一緒に応援しませんか?

【関連リンク】
「野狐禅」ホームページ
「松本人志のコントMHK」公式ページ
竹原ピストルブログ 流れ弾通信
 

 いな・ただし ぴあ株式会社 中部支局中部編集部編集長。ぴあでの編集経験25年。映画や音楽などのエンタメに加え、地元・名古屋文化をこよなく愛する。青春の1本は「アメリカン・グラフィティ」。最近ゾッコンの女優はエル・ファニングちゃん。いちばん好きなバンドはTHE SMITH。邦楽だとフジファブ。東京風の蒸した柔らかいウナギは許せない。ウナギはパリッと香ばしくなきゃ! もちろん八丁味噌LOVE。味噌串カツは最高の酒のアテだね。そして当然ドラキチ。幼い頃から高木守道さんを敬愛しているので、来期の監督就任は熱烈歓迎、猛烈応援。

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