『チック、チック...ブーン!』会見より (左からジェロ、山本耕史、すみれ) 『チック、チック...ブーン!』会見より (左からジェロ、山本耕史、すみれ)

『RENT』の作者、ジョナサン・ラーソンが自身を主人公に書き上げたミュージカル『チック、チック...ブーン!』が、9月13日、東京・あうるすぽっとにて初日の幕を開けた。開幕前には、キャストの山本耕史、すみれ、ジェロの3人が会見を行い、本番を直前に控えた胸の内を明かした。

舞台は1990年のニューヨーク。30歳の誕生日を前に、ジョナサンは作曲家としての自分に焦りを感じていた。親友のマイケルは早々に役者の道を諦め、ビジネスマンに転身。豪華マンションを手に入れ、充実した日々を送っている。ガールフレンドのスーザンはダンサー。ジョナサンとの未来を考え、ニューヨークを離れたがっている。夢と現実の間で思い悩むジョナサン。彼の頭の中では、今日も時計の音と爆発音が繰り返し鳴り響いている。

山本を主演に、2003年、2006年にも上演された『チック、チック~』。今回は山本自らが演出に加え、翻訳・訳詞・振付も手がけている。「自分が感じたいもの、観たいものをふたりの共演者に投影して作り上げました」という山本の言葉通り、その舞台はこれまでとは一味違う、よりエッジの効いた仕上がりを見せた。

主人公にして、ストーリーテラーでもある山本演じるジョナサン。作品を熟知した山本だけに、彼の苦悩はもちろん、たっぷりの皮肉とユーモアを散りばめ、物語のメッセージ性、エンターテインメント性をより際立たせる。それは訳詞を手がけたナンバーにも表れており、ジョナサン・ラーソンの楽曲にしっかりと寄り添いつつも、日本語のおもしろさ、美しさを強く印象づける。

荒削りながら、キュートで切ない女性像を丁寧に演じ切ったのは、スーザン役のすみれ。中でもソロナンバーで披露した高い歌唱力には、今後の飛躍を大いに期待させる。マイケル役のジェロは、これが2度目のミュージカル出演。楽曲はロックだが、彼の根底に流れる演歌の血が、その歌に深みと独特の哀愁を与えていた。

「すごく心が強くて、安心出来るおふたり。緊張はしていますが、本番でも稽古同様、みんなとhave funしたいですね」とすみれが、「毎日稽古場に行くのが楽しくてしょうがなかったです。リスペクト出来る山本さんの指導のもと、勉強出来ることもたくさんありました」とジェロが語るように、非常に充実した稽古の日々を送ってきたふたり。そんな共演者について山本は、「俳優としての経験は決して豊富ではありませんが、その吸収力がすごい。僕自身、とても刺激される毎日でした」と明かす。かつて旧来のミュージカル界に、新たなくさびを打ち込んだジョナサン・ラーソン。その意志は、未知なる共演者ふたりを得て、山本の中へと確実に受け継がれているようだ。

公演は9月30日(日)まで東京・あうるすぽっとにて、10月11日(木)に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演される。チケットは発売中。

取材・文:野上瑠美子