ノートパソコンの店頭販売が微減傾向にある。スマートフォンやタブレット端末の需要が増える一方で、パソコンも買い替え需要が少なくなっていることや、新OS「Windows 8」が10月に登場することで買い控えが起きていることなどが要因だ。そのなかで気を吐いているのが軽量・薄型・高速起動の「ウルトラブック」で、これがノートパソコン全体の販売減を食い止めている状況だ。

●台数ベースで前年同月比97.8% ライトユーザーにパソコン離れ?

家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によれば、ノートパソコンの販売台数前年同月比は、今年3月、119.0%を記録したが、これは昨年3月の東日本大震災による販売減少を受けた数値で、必ずしも実態を表してはいない。その後、4月は99.2%、5月は94.5%と昨年を下回り、6月に106.0%と持ち直したが、7月が96.8%、8月が97.8%という状況だ。

伸び悩みの大きな要因の一つは、スマートフォンやタブレット端末など、モバイル端末の台頭にある。ライトユーザーのノートパソコンの用途は、インターネットの閲覧やメールのやり取りなど。これらは、スマートフォンやタブレット端末で手軽に、しかもどこでも利用することができる。ライトユーザーは、今、手持ちのパソコンを買い替える必要性をそれほど感じなくなっているのだ。

さらに今年10月には、マイクロソフトの新OS「Windows 8」が登場する。年末に向けてメーカー各社が発売するパソコンの冬モデルには、この新OSが搭載される。今、パソコンを購入するよりも、冬まで待ったほうがいいという買い控えが起きていることも、パソコンの販売減の要因だ。

では、6月に106.0%を記録したのはなぜか。それは、メーカー各社が6月にウルトラブックの新モデルを相次いで発売したからだ。例えばデルは、「XPS 13」に続く第二弾モデルとして、14インチワイドのHD液晶ディスプレイを搭載した「Inspiron 14z」を5日に発売。レノボ・ジャパンは、LEDバックライトつきの13.3インチ光沢液晶ディスプレイを搭載した「IdeaPad U310」を8日に発売した。ウルトラブック新規参入組のソニーは、スリープモードからの高速起動や作業中データの自動保存が売りの「Tシリーズ」を9日に発売。ほかにも、東芝が約7秒の高速起動で13.3インチの「dynabook R632/28F」を、マウスコンピューターが11.6インチワイド液晶ディスプレイを搭載した「LuvBook Xシリーズ」を15日に発売した。

●メーカー同士で付加価値を競う ウルトラブックで活性化に期待

さらに、日本エイサーが13.3インチの「S5-391-H74U」など3機種、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が、15.6インチワイド液晶の量販店向けモデル「HP ENVY6-1000」、ASUSTeK Computerが「ASUS ZENBOOK Prime UX31A」など4機種5モデルを発売した。富士通は、500GBのHDDを内蔵した14インチの「LIFEBOOK UH75/H」を発売したことに伴ってタッチ&トライイベントをJR新宿駅東口の新宿ステーションスクエアで開催し、ウルトラブックの魅力をアピールした。6月に集中したウルトラブックの新モデル発売は、ノートパソコンの販売を微減にとどめるストッパーの役割を果たしたといえる。

ウルトラブックは、インテルが定義する軽量・薄型・長時間バッテリ駆動・スリープ状態からの高速復帰などの要件をクリアしたノートパソコン。スペックなどで同じ土俵に立っているがゆえに、メーカーは、他社との差異化のためにスタイリッシュなデザインなどの付加価値を追求している。こうした付加価値で、ユーザーに「パソコンを持って歩きたい」「持ち歩いたら便利かも」と思わせることができれば、ノートパソコンは再び浮上してくるだろう。

ウルトラブックの攻勢は、その後も続いている。8月には、マウスコンピュータが5万円台の低価格を実現した14インチの「LuvBook L」を3日に発売したほか、NECパーソナルコンピュータが重さ約875グラムとウルトラブックのなかで世界最軽量の「LaVie Z」を23日に発売した。9月7日には、日本HPが13.3インチワイド液晶の「HP ENVY SPECTRE XT 13-2000」の量販店モデルを発売している。

6月のような前年比増は難しいかもしれないが、9月から、「Windows 8」搭載モデルが発売となる年末まで、ノートパソコンの販売をウルトラブックが支えていく構図になるのは間違いない。(佐相彰彦)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年9月17日付 vol.1448より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは