「悲劇の続き」を紡ぐ岡本健一、中嶋朋子、浦井健治ら実力派俳優の競演

2012.9.25 15:55配信
新国立劇場『リチャード三世』の稽古風景 撮影:吉田タカユキ(SOLTEC) 新国立劇場『リチャード三世』の稽古風景 撮影:吉田タカユキ(SOLTEC)

2009年秋、全三部9時間一挙上演の快挙を成し遂げた新国立劇場の『ヘンリー六世』。歴史上繰り返される復讐の連鎖、諍いの悲劇をダイナミックに舞台に立ち上げ、高く評価されたことは記憶に新しい。その続編が『リチャード三世』だ。新国立劇場は、前三部作の主要キャストが同じ役で継続出演する同作の上演を企画した。三部作の終幕、白薔薇ヨーク家と赤薔薇ランカスター家の熾烈な戦争はヨーク家が勝利し、ヨーク公の長男エドワードが即位。末弟グロスター公リチャードが王位を狙って劇中を疾駆し、やがて壮絶な最期を迎えるのが今作だ。9月某日、稽古場を取材した。

新国立劇場『ヘンリー六世』チケット情報

前回に続きリチャードを演じるのは岡本健一。背や足に生まれつきの障害を持つ、醜い容姿に対する劣等感から、権力を手に入れるべく謀略と殺人を繰り返すリチャード。その暴君ぶりを岡本は、役の裏にある衝動や揺れ、人間的な感情の移ろいで裏づけた緻密かつ大胆な演技で肉づけていく。冒頭、自身が殺したヘンリー六世の皇太子妃・アン(森万紀)を王位への足がかりとして口説く場面では、憎悪に燃えるアンを、獲物を追い込む猟師の力強さと官能的な言葉でねじ伏せる。ふたりの兄エドワード(今井朋彦)とクラレンス(前田一世)を陥れるためちらつかせる偽りの思いやり。腹心バッキンガム(木下浩之)と策謀を巡らせ、その成否に一喜一憂する滑稽さ。母・ヨーク公爵夫人(倉野章子)から向けられる嫌悪に対する諦めと自嘲。

目を引いたのは、ヘンリー六世の妃マーガレット(中嶋朋子)と対峙する場面だ。中嶋も三部作から同役を続投。戦を嫌う夫に代わり、息子エドワードと共に戦場に赴く烈女は敗北の後、今度は身ひとつで夫と子を奪われた怒りと哀しみ、呪いの言葉を吐き散らし、白薔薇一族の破滅を予言する。中嶋マーガレットの鬼気迫る呪詛を、岡本リチャードが僅か一言の“返し”で無効にする場面は思わず吹き出すおかしさ。場の空気を一変させる緻密な間合いは、俳優同士として信頼の厚いふたりだからこそ表現し得るものだろう。三部作の稽古時、「今まで演じられて来たリチャードとは全く別の表現を見つけた」と言った岡本の言葉が鮮やかに蘇える。舞台下にいても稽古中は、身体を傾け足を引きずるリチャードの姿勢を続けるその気迫の凄まじさ。

さらに終幕、リチャードの暴走を止めるべくフランスから攻め入るリッチモンド伯ヘンリー、後のヘンリー七世を演じるのは前作のタイトルロール浦井健治。清々しい若武者ぶりで戦いを終結させ、ヘンリーからヘンリーへ、同じ名を持つ者に権力が再び渡るという繰り返す歴史の不思議、人間の愚かさ、それゆえの愛おしさを一身に背負った立ち姿には貫禄すら感じられた。

人物すべてが活き活きと動き、せりふが粒立って届くのは作品と俳優を熟知した演出・鵜山仁の手腕によるもの。古典作品への先入感を払拭する、躍動感あふれるドラマはライヴで体感しなければ損としか言いようがない。

公演は10月3日(水)から21日(日)まで、東京・新国立劇場にて上演。

取材・文:尾上そら

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