【『タダコピ』のビジネスモデル】
'06年のサービス開始当初には2大学しかなかった設置先も、現在では日本全国162大学194キャンパスに広がった。広告主にとっては、限定されたターゲット=学生に対して確実にアプローチできる点が魅力だ。
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そうしたメンタリティは、彼らより上の世代の起業家の多くに共通する利益志向とは明らかに異なるものだ。そして、そういう理想追求型の志向は、会社設立から’09年頃までの会社の運営方針にも色濃く表れていたという。

「メンバーの中には、世界を股にかけるビジネスパーソンになりたいという者もいれば、新しいサービスを生み出して世界に広げたいという者、あるいは私のように、会社を通じて国を変えたいという者もいました。でも、そうした各人の理想とするものをひとつに絞ってしてしまうと、組織にいられなくなる者が出てきてしまいます。だから、そこはあえて統一せず、みなが目指しているものの最大公約数的な場所に目標の旗を立てることにしました。

組織運営においても、営業担当や広報担当、会計担当などを各メンバーに割り振っていましたが、実際には会社組織というよりサークル組織に近かったかもしれません。一応、社長や役員も決めましたが、社員同士の関係は基本的にフラットで、みなで相談して意思決定していました」

しかし、『タダコピ』を設置する大学が徐々に増え、事業規模が拡大するにつれて、そうしたゆるやかなつながりで保たれてきた組織運営に限界が訪れる。

「『タダコピ』サービスが国内にある程度広がって、次に事業をどう進めるかという段階に入ったとき、海外へ進出しようという方針や、反対に、国内により広めることに集中しようという方針、あるいは、大学の数はこのままでサービス内容を拡充しようという方針など、各メンバーの意見は大きく割れました。

もちろん、どの方針にもメリットとデメリットがあって、どれが正しいとは一概にいえない上、先ほど述べたように、各人の価値観や夢は異なりますから、それまでのような集団的な意思決定のやり方では結論を出せませんでした。

そうなったとき、誰かが会社のビジョンを定めて、それを目指すための事業はこうあるべきだ、という方針を、素早く打ち出さなければならなくなったんです」