渡辺徹、小島聖 撮影:吉田タカユキ(SOLTEC) 渡辺徹、小島聖 撮影:吉田タカユキ(SOLTEC)

第2次世界大戦を挟んだ激動の時代を背景に、養豚業に生涯を賭けた男の一代記を描いて2005年の英批評家協会賞を受賞した『ハーベスト』。執筆した英国人劇作家リチャード・ビーンは、近年では珍しくなった“Work Play(労働の演劇)”の担い手として注目を集め、現在ブロードウェイで上演されている新作がトニー賞7部門にノミネートされるなど、欧米演劇界で最も期待されている作家のひとりだ。今回、本作の主人公ウィリアム・ハリソンの19歳から110歳までを演じるのは渡辺徹。渡辺は5月に虚血性心疾患で手術を受けてから、これが舞台復帰後第1作。渡辺と、その姪でウィリアムと共に牧場で長い年月を過ごすローラ役の小島聖に、本作への思いを訊いた。

「ハーベスト」チケット情報

台本を一読して渡辺は、「普通の芝居だとクライマックスに向かって起承転結があるイメージですが、この作品はどこにでもいる“ある男”の約100年間の出来事が、それぞれ丁寧に描かれている。その分、人間の深い部分が浮き彫りになるし、そこが面白いなと感じました」と語る。一方の小島も、「ローラの25歳から85歳までを演じますが、ひとりの女性のこんなに長い時間を演じるのは初めて。最後まで一緒に過ごすウィリアムに対しては、お父さんのような、または頼れる年上の男性のような……いろんな感情が入り混じっていると思うので、その行間を徐々に埋めていきたい」と稽古に入るのを心待ちにしている様子だ。

演出は、演劇集団円の演出部に所属し、自ら主宰する劇団モナカ興業でも活躍する森新太郎。まだ30代半ばながら、名戯曲といわれる諸作品に正面から取り組みつつ、現代に生きる者としての目線も忘れない演出で高い評価を得てきた。

文学座に籍を置く渡辺は、「テキスト(台本)を読み込むことがどんなに大切かは、森さんや僕のような劇団員には身に染みてわかっていること」ときっぱり。続けて「円の知り合いに聞いたら、稽古場で役者にじっくりと汗をかかせてくれる演出家さんだということなので、そこも期待しています」と嬉しそうな表情で語る。森が以前演出した『ゴドーを待ちながら』を観たという小島は、「あの難解だといわれている作品がストンと腑に落ちたんです。シンプルで飾らない演出だけれど、とても魅力的でした。今回もイギリスの壮大なストーリーをお客様にゆったりとした気持ちで楽しんでもらえれば」と話していた。

舞台の現場は約8か月ぶりとなる渡辺。「休んでいる間、知り合いの舞台を観に行ったら、ただのお客さんの気分にかえって新鮮でした」と笑いながらも、「その後は舞台に立ちたいという気持ちが強くなって」とその胸中が語られた。上質な舞台の醍醐味がたっぷりと味わえる本作で、その姿が再び観られる日を楽しみに待ちたい。

公演は12月11日(火)から24日(月・祝)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演。チケットは10月6日(土)より一般発売開始。

取材・文:佐藤さくら