左より千葉哲也、堤真一 (撮影:源賀津己) 左より千葉哲也、堤真一 (撮影:源賀津己)

戯曲、演出家、俳優の斬新かつ魅力的な顔合わせから質の高い作品を放ち続けるシス・カンパニーが、現代アメリカ演劇を代表する劇作家、スーザン・ロリ・パークスのピュリッツァー賞受賞作『TOPDOG/UNDERDOG』を上演する。翻訳・演出を手がけるのは、近年目覚ましい活躍を続ける演出家・小川絵梨子。11月30日(金)に東京で幕を開け、来年1月には大阪、福岡、長崎と全国公演が続く。兄弟の愛憎を描いたこのふたり芝居に挑む、堤真一と千葉哲也に心境を訊いた。

『TOPDOG/UNDERDOG』チケット情報

今はなきベニサン・ピットを拠点としたtpt作品で共演以来、千葉いわく「なぜかウマが合う」というふたりの付き合いは20年近い。各々キャリアを積む中、ここ数年で「ふたりで芝居がしたい」という思いが高じてきたと堤は語る。「僕は劇団に所属しているわけではないから、“帰るべき場所”がない。それなら自分で“ベース”を作らなきゃと思った」。小さな空間、少人数での芝居創りは、堤にとっての原点だ。千葉はこれまで、演出家として俳優・堤真一に向き合ってきた。そして今回、いよいよ俳優同士として対峙することになる。癖のある人物を演じて強烈な印象を残してきた千葉だが、「今までは演出家で偉そうにしていたのに、役者に戻ったら“全然出来てねぇじゃねぇか!”ってなるかも」と笑う。

舞台は現代のアメリカ。黒人社会の底辺でもがく兄弟の物語だ。白塗りをし、暗殺されたリンカーン大統領を演じる遊園地のバイトで食い扶持を得る兄(千葉)。生活能力のない弟(堤)は、居候の兄に生活費をすべて払わせ平然としている。果たしてどちらがトップドッグ(勝者)で、どちらがアンダードッグ(敗者)になるのか。「互いに嘘をついているのか本音を言っているのかわからない」と堤が言うように、微妙なバランスで成り立つ兄弟の関係には徐々にほころびが生じていく。「たとえ兄弟でも相手の腹の中は読めないもの。ふたりが何を隠し、どう嘘をついているのかがきちんと出せると面白いのでは」と千葉が語れば、堤は「どちらがトップでもアンダーでも、しょせん犬は犬。そんなちっぽけな世界でも比較対象がないと自分の位置が計れないところが、人間の哀しさだと思う」と、人間の本質に思いを馳せる。兄弟ゆえに愛憎はより深く、滑稽で切実なパワーゲームの行方は、最後の瞬間まで予断を許さない。

演出の小川絵梨子とはふたりとも初の顔合わせ。「男の兄弟の話だから、女性の演出家に客観的に見てもらえるのは大きい。何より、小川さんが訳した上演台本が面白い!」と堤は力を込める。男盛り、脂が乗った俳優ふたりの真剣勝負を小川がどう捌くのか、注目が集まる。

公演は11月30日(金)から12月28日(金)まで東京・シアタートラム、2013年1月4日(金)から8日(火)まで大阪・松下IPMホール、1月10日(木)から13日(日)まで福岡・西鉄ホール、1月16日(水)から18日(金)まで長崎NCC&スタジオにて上演される。チケットは10月28日(日)より一般発売開始。

取材・文:市川安紀