渋沢喜作役の高良健吾(左)と渋沢栄一役の吉沢亮

 「千代はそんな栄一さんをお慕い申しておるんだに」

 千代(橋本愛)の突然の告白で幕を開けた大河ドラマ「青天を衝け」第六回「栄一、胸騒ぎ」(3月21日放送)。それを聞き、「なんだか、胸がグルグルする」と自分の心に湧き上がった感情をつかみ切れない栄一(吉沢亮)は、熱かんの酒を手にこぼした自分の手当てをしようとした千代に戸惑い、長七郎(満島真之介)に「千代が嫁に欲しい」と宣言する喜作(高良健吾)を見て驚き…と終始、千代の存在に突き動かされていた。

 とはいえこの回では、千代以外にも物語のキーになりそうな女性たちの姿が幾つも描かれていたのが特徴的だった。

 まずは、徳川慶喜(草なぎ剛)の妻となった美賀君(川栄李奈)。京の公家から嫁いできた自分にそっけない態度を見せる慶喜と養祖母・徳信院(美村里江)の仲の良さに嫉妬し、激しい感情をむき出しにする。

 その姿は慶喜を戸惑わせたが、番組公式サイトの人物紹介には「やがて慶喜のよき理解者となる」とある。今後2人がどのように距離を縮めていくのか、草なぎと川栄の芝居も含め、一つの見どころとなりそうだ。

 さらに、第13代将軍・徳川家定(渡辺大知)に嫁ぐため、薩摩の島津家から江戸にやってきた篤君(後の天璋院)も、今回が初登場。

 「徳川のため、丈夫なお世継ぎを生んでみせましょう」とあいさつしたところ、養父・島津斉彬(新納慎也)から、「それよりも、慶喜が将軍になる後押しをしてほしい」と返されるが、「さようでございますか。承知いたしました」と、動じることなく応じてみせる。篤君と同じ鹿児島出身の上白石萌音が演じているせいもあってか、そのたくましさと安定感のあるたたずまいも魅力的だった。

 美賀君と篤君。将軍の妻となる2人の女性は、キャスティングの妙や衣装の華やかさも相まって物語に新鮮な風を吹き込み、今後の活躍を期待させる初登場となった。

 そして忘れてはならないのが、慶喜の母であり、徳川斉昭(竹中直人)の妻でもある吉子だ。側近・藤田東湖(渡辺いっけい)を失って意気消沈する斉昭を支える一方、美賀君を妻に迎えた慶喜に、母として助言。その包み込むような温かさに加え、朝廷を敬う水戸徳川家一同が正月、上座に座った公家出身の吉子から杯を受ける場面は、彼女が一家の要であることを象徴するかのようだった。

 演じる原日出子は、「徳川家康」(83)以来、2度目の大河ドラマ出演となるが、竹中の熱演を受け止め、ナチュラルな草なぎへとつなぐ、包容力あふれる芝居も見事だ。

 また、「父上は、よい妻をめとられた」と語る慶喜に、「私がよい妻などとはとんでもない。私は、嫁ぐ夫に恵まれただけですよ」と返した後、吉子が発した次の一言も印象的だった。

 「夫が素直で、良き心を持てば、妻もおのずと、良妻となるものかもしれません」

 幅広い解釈ができそうな含蓄のある言葉だが、今後、栄一も結婚し、夫婦としての姿を描いていく上で、これが本作の夫婦像に対する一つの指針になりそうな気もする。栄一や慶喜たちを中心に物語が動いていく中、彼らを取り巻く女性たちがどんな活躍を見せるのか。そんな期待が高まる第六回だった。(井上健一)