夫名義の持ち物である家。もし夫に先立たれた場合、法律上、家は相続財産に分類され、法定相続人の共有財産となります。妻だけが相続できるわけではないのです。

誰と共有になるのかは、家族構成によって変わってきます。

例えば、夫との間に子どもがいる場合、子どもと妻との共有財産となります。もし子どもがいなければ、夫の両親が健在であれば夫の両親と妻との共有財産に。夫の両親が健在でなければ、夫の兄弟姉妹と妻の共有財産になるといったように、変わってきます。

いずれにしても、妻が単独で相続できるとは限らないというのがポイント。

そんな中、特に子なし夫婦においては、トラブルが起きやすいといわれています。取り残された妻は、夫の両親や兄弟姉妹と、財産の奪い合いのようになってしまうケースもあるためです。

そこで今回は、司法書士に妻がトラブルなく相続するための対処法を教わります。

【子なし夫婦】夫に先立たれたら家の相続はどうなる?

今回お話を聞いたのは、日頃から相続手続きの無料相談を多数受けている司法書士の高橋徹さんです。

架空のケースとして、子なし夫婦40代の妻の次のような悩みに対して、解決策をアドバイスいただきました。

「夫名義でマンションを買いました。しかし将来、夫が先立ってしまったら、我が夫婦には子どもがいないので、妻の私だけでなく、夫の両親も法定相続人になるかと思います。

今後も住み続けて、将来は売ることも視野に入れていますが、完全に妻の私だけのものにすることはできないのでしょうか?

義両親とはあまり仲が良くなく、私は義両親から少し嫌われています。おそらく私に譲るということはないかと思います。どうすればいいでしょうか」

高橋徹さん(以下、高橋)「結論から申し上げると、ご主人様名義のマンションをご主人様の死後に奥様名義にすることは可能です。この場合はご主人様に『奥様に相続させる旨』の遺言書を書いてもらうのが一番良いでしょう。

ただし、ご主人様のご両親の遺留分侵害請求に関する対策を検討すべきですから、詳細は専門家に相談してください。ここでは遺留分侵害請求に関する基本的な対処方法を3つご紹介します」

遺留分侵害請求に関する基本的な対処方法

1.義両親からの遺留分侵害請求に備え、妻名義で貯金しておく

高橋「遺留分とは各相続人の最低保証分のことで、近年の民法改正により、この遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害請求ができ、この請求に対しては金銭支払いで解決することが原則になりました。

つまり、本ケースにおいて『奥様に相続させる旨』の遺言書を残す場合の一つ目の対処方法としては、ご両親からの遺留分侵害請求に備えて奥様名義で貯金しておくことが挙げられます。

未来のことなのでご両親から遺留分侵害請求をされるかどうかはわかりません。請求されないのであれば、その貯金は奥様の自由に使えますし、請求されるなら貯金があれば対応できます」

2.夫の遺言書を、遺留分侵害しない程度の相続分を両親に相続させる内容にする

高橋「二つ目の対処方法としては、遺言書の中身に関して遺留分侵害しない程度の相続分をご両親に相続させる内容にすることがあげられます。

例えば相続分の現金や株式などをご両親に相続させるなど記載しておけば良いでしょう」

3.遺言書の付言(ふげん)事項において夫に両親を説得してもらう

高橋「三つ目の対処方法としては、遺言書の付言事項において説得する方法があります。本ケースでは、実の息子であるご主人様がそのご両親に残す付言事項です。

具体的には『遺留分侵害請求をしないでほしい旨』をご両親の感情面に訴えかけると良いでしょう。法律的に束縛できる方法ではありませんが、故人の最期の想いを相続人はないがしろにできないものです」

高橋「本ケースでの3つの基本的な対処方法を挙げました。どれか一つ遺留分侵害請求対策をするのではなく、3つの対処方法を組み合わせるのが最も効果的ですので、ご検討ください」