人が「認知」するのと同じ自然な映像だからストレスがない

アイキューブド研究所は11月30日、東京・大田区のライフコミュニティ西馬込で「動絵画展」を開催した。同社は、液晶ディスプレイのどこに視点を合わせても、ボケ感が一切なく、解像度の高いクリアな映像を映し出す独自の映像処理技術で定評がある。

手前や奥の白鳥と鴨が一羽一羽クリアに見える

2021年の作品「朝来」は、5台の27型液晶ディスプレイに池面に群がる白鳥や鴨の泳ぎを映し出したもの。手前や奥にいる白鳥や鴨の一羽一羽に目の焦点を合わせても、ボケることなくクリアに見ることができる。その場にいるような体験が得られるのは、人が日常で風景を眺めたり認知したりするのと同じ、脳にストレスを与えない映像をみているからだ。

3Dなど特殊なディスプレイではなく、通常の4K(3840×2160)液晶に、普通の4Kビデオカメラで撮影した動画を再生している。この作品のためだけに、映像処理エンジニアがまるで絵画の画家になったかのように光や映像信号の処理を駆使して作り上げている。まさに「動絵画」という言葉がぴったりだ。

池面に反射する朝日のかすかな光の加減や、奥の対岸で犬を連れて散歩する人の姿までクリアに見ることができる。離れても、近くでも、正面でも、左右でもそれぞれの距離や角度にあわせた自然な見え方になるから不思議で仕方ない。

最近のテレビの映像処理技術は、例えばYouTubeの粗い動画をきれいに処理したりすることに奔走しているように感じる。それはそれで大画面のテレビでストレスなく楽しめるようになった。しかし同社の担当者は「映像が本来持つ力はそんなものではない。きちんと処理した光と信号を目に届けると脳にストレスを与えないため、その人の脳に残っている記憶まで呼び起こすことができる」と説明する。

確かに実際に「動絵画」を眺めていると、どこかで同じ光景を見たような気持ちになり懐かしい感情が呼び起こされるように感じる。きっと見る人それぞれで、想起される感情や感覚は異なるのだろう。

2020年に発表した「海原」という作品も同じように、65型液晶ディスプレイ3台に浜辺の様子を映し出している。どこに視点を合わせてもクリアに見えるのはもちろん、水平線に至るまで繊細に変化する海の青色のグラデーションも破綻することなく表現されている。

視点を手前に移すと、波打ち際の細かい白波に反射する太陽の光の様子が見事に再現されていて、まるで海の家から海岸を眺めているかのような感覚に陥る。

かつて世界中でヒットしたソニーの平面ブラウン管テレビ「WEGA」のデジタル画像処理技術「DRC(Digital Reality Creation)」を開発した近藤哲二郎氏が2009年に立ち上げたアイキューブド研究所。今でもその技術は若い技術者たちに脈々と受け継がれている。(BCN・細田 立圭志)