現在の日本の社会保障と申請主義の限界を問う
Polimill株式会社(東京都港区、代表取締役:横田えり)が運営する意見投票プラットフォーム「Surfvote」において、稲葉陽二先生が執筆したイシュー「生きることは『自己責任』か?」に対して、稲葉先生から新たにコメントをいただきました。このコメントを通じて、日本における「自己責任」や「申請主義」の問題点、そしてそれが社会全体に与える影響について、より深く考える機会を提供いたします。
イシューの背景
日本では、福祉制度をはじめとする多くの制度が「自己責任」を前提に成り立っているとされています。しかしこの自己責任論が現実に即しているのかについて疑問の声もあります。
特に、若年層の貧困や高齢者の社会保障において、「自己責任」として片付けることができない側面があることを指摘しています。イシューはこちら
稲葉陽二先生からのコメント
投票ありがとうございます。 本件についての私の考えは、「生きること」が本人の責任に帰する部分がすべてなら自己責任・申請主義で問題ないが、「親ガチャ」や天災、社会の理不尽など現実には本人ではどうしようもない要因によるなら自己責任・申請主義はおかしいのではないかというものです。 若年層の貧困とよく言いますが、これは若年層の自己責任ではない、だから申請主義はおかしいとおもいます。 この考えを適応すると、年齢を重ねるにつれて「自己責任」の部分が増えていくのですが、高齢になれば申請を行う能力が失われていきますから、高齢者に一律に自己責任として切り捨てることはできないと考えます。 また、そもそも高齢者の社会保障は責任問題として適用しているわけでもありません。 個人的には「生きることは自己責任、だから適用は当事者の申請主義でよい」と言い切れる事案は、日本人が一般的に考えている範囲よりもずっと狭いのではないかとおもうのですが、いかがでしょうか。 ご参考までに、私が作成した孤立・孤独対策として3次予防(疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図ること)、2次予防(健康診査等による早期発見・早期治療)、1次予防(当事者が生活習慣を改善して予防する)、ゼロ次予防(社会の仕組みを変えて予防する)の関係図を添付します。
これは都立大の星旦二先生の提唱されたゼロ次予防の考えに基づいています。
孤立・孤独問題について作成したものですが、本質的な問題はゼロ次予防という意識を持たないと解決できないのではないかと考えます。 人は人間関係のなかで存在しているのですから、「生きることは自己責任」という考えは現実にそくしたものとはいえないと考えます。
「ゼロ次予防で孤独・孤立をなくす」(月刊自治研vol,64 no.754, p.23-33、稲葉陽二、2022)
稲葉陽二
1949年東京生まれ。京都大学卒、スタンフォード大学MBA,,博士(学術)筑波大学。ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の研究をしています.30年のサラリーマン生活(日本開発銀行、OECD/IEA,政策投資銀行)を経て、2003年から研究者として20年すごす。大学(日大法学部)では日本経済論、ソーシャル・キャピタル論、コーポレート・ガバナンス論を教え、2020年フルタイムの職を辞し、大学院で非常勤講師。中公新書『ソーシャル・キャピタル入門』『企業不祥事はなぜ起きるのか』、共編著『ソーシャル・キャピタルの世界』ミネルヴァ書房、『AIはどのように社会を変えるか』東大出版会、など。
稲葉陽二先生
詳細と参考資料
稲葉陽二先生のコメント全文や参考資料については、以下のリンクからご覧いただけます。
イシュー「生きることは『自己責任』か?」の詳細はこちら
(参考)
星旦二(1989)「ゼロ次予防に関する試論」、『地域保健』Vol.0-6,pp.48-51.
星旦二(2000)『都市の健康水準 望ましい都市の健康 健康づくりのために』東京都立大学出版会.
稲葉陽二(2022)「ゼロ次予防で孤独・孤立をなくす」『月刊自治研』vol,64 no.754, p.23-33.
Polimill株式会社
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