イラスト:上田 耀子

家庭のため、と思って自分の仕事を頑張る妻。その収入が夫を上回ってから、モラハラが始まったといいます。

妻が自分と対等になることを認めない、許せない夫に対して、妻が選んだのは自立の道。それは、「いつでも離婚できる」自信を持つことでした。

1.「こんなものを見せて、嫌味か」と顔をしかめる夫

36歳になるある女性が過ごしていたのは、40歳の夫と小学生の子どもがいる平凡な家庭だったといいます。

会社勤めをしている夫は、頑固だけど子ども思いで、DIYなども積極的に手を出して家の不便を解消してくれるような男性。収入は決して多くはないけれど、女性もパート勤務で家計を支え、夫婦の間で特に大きな問題はなかったそうです。

それが変わったのは、彼女がパート先から正社員にならないかと声をかけられてから。働きを認められたことに、「最初は夫も喜んでくれていた」と女性は思っていました。

しかし、正社員になってからは彼女のほうが夫より多くの収入を得るようになります。残業などもありましたが、彼女にしかできない作業があり、そのため手当てなどで手取りが増えたのが実情です。

それを知った夫は、彼女が毎月見せる給与明細に顔をしかめるようになりました。彼女が残業の日は晩ごはんがスーパーのお惣菜になることもあり、「もう少し仕事を減らせばいいのに」など文句を言われ、洗濯が済んでいなければ「これ、どうするの?」と睨まれ、彼女は「心臓がギスギス音をたてるのを感じながら、一生懸命夫の機嫌をとるために謝っていた」そうです。

ある日、任せられていたプロジェクトが成功し、彼女は昇進します。収入もそれによって上がり、おそるおそるその月の給与明細を渡すと、

「こんなものを俺に見せて、嫌味か」

と夫は「吐き捨てるように言って、明細を放り投げた」そうです。

それからは家事もほとんどやらなくなり、彼女の帰宅が遅くなれば文句をいい、仕事を家に持ち帰れば「そんなものを広げるな。目障りだ」と乱暴にドアを閉め、彼女はどんどん萎縮していきました。

2.「稼ぐ妻」を認められない夫の器の狭さ

「どうしてそんなに旦那さんに気を使うの?」

と尋ねると、女性は

「ずっとあの人の稼ぎを中心に生活してきて、家の中もあの人の言う通りにやってきたから……。

私のほうが収入が多くなっても、あの人をいたわる気持ちは変わっていないのに」

と暗い顔で答えました。

彼女は、決して自分が夫より偉く振る舞いたいのではなく、

「世帯収入が上がって良かったねって、お互い頑張ろうねって言いたいだけ」

と考えていました。

ですが、夫は元気をなくしていく妻を見てどんどん調子に乗り、休日にソファで寝転がりながら掃除機をかける妻を横目に見て「家事をまともにできないなら仕事を辞めろ」と言い放ったそうです。

「それまでは、休みの日は一緒に掃除とか洗濯とかしていたのに、今では全部私の仕事。あの人はダラダラと過ごすだけで、なんだか監視されているみたい」

と肩を落として彼女は言いました。

その様子に、おかしいと気がついたのは彼女の母親でした。

「昇進したって聞いたけど、こんなに痩せちゃって……顔色も悪くなってるし、そんなに忙しいの?」

と心配そうに尋ねられたとき、彼女は我慢できずにすべてを打ち明けたそうです。

夫より収入が上であること、それによって夫のモラハラがひどくなる一方であること、平日も休日もろくに休めずに最近は仕事を辞めようかと悩んでいること。

それを聞いた母親は、

「それは夫が悪い。稼ぐ妻が許せないなんて、器量の狭い男だね」

と険しい顔つきではっきりと言ったそうです。