ーー「どんなにたくさんの自然体験をさせてあげても、みんなやっぱり年頃になると『スマホ中毒』になるんです。」

そんな、ママたちの理想が音を立てて崩れるような現実を語るのは、13歳の思春期男子を育てる先輩ママでありながら、編集者として数多くのヒット作を送り出し“コミックエッセイ”というジャンルを確立してきた松田紀子さん。

人気コミック・エッセイ「まっとうな親になりたい」の著者で4歳男児の母のChaccoさんを聞き手に、子育ての理想とギャップについて、深めていきました。現実に直面した時、どう向かい合い、どう乗り越える?

覚悟せよ!親の理想は必ず一度崩れる

松田:極論ですが、中学や高校生くらいになって、同じ年頃の子たちがみんなスマホを持ってたら、やっぱりスマホ大好きになっちゃう。そういう時が必ずるんですよね。

Chacco:わー!出た『スマホ』!

松田:もちろん、自然体験なんかは情緒の発達に良い影響があったりしますが、中学くらいで『親の理想は一度壊れる』ということ。どんなに絵本の読み聞かせを頑張っても、一度リセットされるんだな、というのを今感じています(笑)。

Chacco:ガーン。リセットは辛い。

松田:コンテンツもさらに面白いものが出て来るし、動画の技術も発展の一途ですし、ネットやスマホの世界はもう避けては通れないですよね。

Chacco:いくら親が理想を掲げていても、現実というもの=スマホがあって、理想の力で完全に打ち負かすことなんてできないんですね…。

松田:理想を掲げて子どもに「やらせる」のではなくて、親自身が「やりたい」と思うことを子どもと一緒にやるのであれば、それはすごく意味があると思います。

動物と触れ合うのも、乳搾りも、親が本気で楽しんですればいいんじゃないですかね。

そうすると子どもは「お母さんが楽しそうだからやろう!」ってなりますよね。親が先頭に立って楽しむのが一番ですよね。

Chacco:確かに、私もそんな経験あります。

松田:さらに言うと、親だけでなく、いろんな大人がいかに人生を楽しんでるのか、それを子どもたちに見せるのが大切だと思うんです。

規格外の大人も含めて、いろんなモデルケースとしての大人を見せたほうが、子どもにとっては成長の選択肢が増えて、気が楽になる(笑)。

子どもと、大人と。

松田:子どもには『逃げ場』がいっぱいあった方が良いんじゃないかな。親以外の大人、それも特に憧れの対象になる大人はその役割を担ってくれます。

例えば部活動のコーチとか。怒らたり、怒鳴られたりしても、その人の言うことは聞いたりする。親とは違う大人の姿を見て、親のいないところでのびのびできる時間を持てるとすごく成長に繋がるし、大切な時間になると思います。

Chacco:年齢が違う層と付き合うと視野が広がるし、レールの上をガンガンはみ出している大人もいっぱいいる。そういうのを見せておきたいですよね。

私自身10代で漫画の世界に足を踏み入れさせてもらったんですが、仕事をしている大人たちを見て、「こんなに大変なんだ」っていうのを目の当たりにして驚いたのを覚えています。

一方で、そんな大人たちに大人扱いをしてもらえた時は嬉しかった。

松田:大人も人間ですからね。『スマホ』の話に戻ると、親って正解の世界だけしか見せようとしなかったりするじゃないですか。

でも、漫画とか映画とかって、正解だけじゃない、ただれた世界やむき出しの世界も見せてくれますよね。

そういうコンテンツもむしろ見てもらって、今自分が生きている世界とは違う世界もあるんだ、というのは感じてもらいたいと思っています。

流石に「全裸監督」(昨年話題になったNetfrixドラマ)なんかはまだあと数年は見せませんけどね。でもああいう生き方もある、ということを知ってはほしいかな。

Chacco:「全裸監督」は確かにまだ早い!(笑)でも面白いからいつかは見て欲しい気持ちもわかります。

私も夫婦ともにオタクなので、その影響でうちの息子もゆくゆくはニッチな方向に行ってしまうのではと思うんですけど、でも親が楽しんでいることを子どもと共有する、というのは親にとってもいいですよね。

松田:大きくなってくると、逆に子どもからトレンドを逆輸入することも出てきますよ。

「鬼滅の刃とか流行ってるよ」って言われて見たら、確かに面白いなって思うし、「YouTubeのこれが面白いんだ」って聞いて見たりしていると、やっぱり中高生がトレンドを作るんだなってしみじみ思います。

だんだんそういった情報が私の仕事にも役に立って来るんですよね。成長してくると子どもから逆に教えてもらえます。すごく面白いですよね。助かるし。

Chacco:なるほど、子どもはもちろん親の所有物でも作品でもないですが、一人の人間として、この先ずっと関わるようになる相手なんだって思うとなんだかワクワクしますね。

うちの息子は発達ゆっくりさんなんですが、コミュニケーションの発達を感じた時には「育児の集大成が結実した!」って気持ちになって興奮してしまいます。

最近やっと、子育ての大変だったり辛かったりという気持ちと、楽しいって気持ちの割合が逆になってきた気がします。

松田:バブバブ言ってた時も可愛いけど、13歳になった今は、一人の人間として対等に話せる。私は息子の行きたい方向に、少し手を添えるくらいですかね。

彼が私との関係のあり方を気に入っているかは分かりませんけど、これからもきっとこの関係性は変わらないと思います

Chacco:私は、自分の親とすごく緊張感のある関係で幼少期から過ごしてきたので、自分自身がどんな親として、どう子どもと関わるべきかを考えることがすごく多いのですが、そんなふうに風通しの良い親子関係っていいなって思います。

「子どもには、生きているって楽しいということを伝えている」

松田:私の場合「いいお母さん」になろうとは、特に思っていないんですね。

ただ、ヤマザキマリ先生が仰ってた「子どもには、生きているって楽しいということを伝えている」って、いうのがすごくよいなあと感じていて。

Chacco:「生きているって楽しい」、いいですね。

松田:生きていると苦しみも悲しみもあるけど、色んなことを味わいつつも楽しく突破していく姿を子どもには見せたい。

「こうあるべき」という「べき論」は私は苦手で、いかに現状をぶっ壊すかってことばかり考えているタイプなのですが、多くの女性が「タガを外せない」ということで悩んでいるのかなって思います。