中村倫也 撮影/高橋那月
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中村倫也というものを使って自由に遊んでくれたらいい

「自分の中にいろんな自分がいる、という感覚はすごくありますね。たぶんそれが人よりも強いんだと思います」

ささやくような、低くて甘い声でそう自分について話す。俳優・中村倫也の最新主演映画『水曜日が消えた』。

本作で中村は、幼い頃の交通事故が原因で、曜日ごとに7人の人格が入れ替わる青年を演じている。

設定こそ特殊だが、私たちも日常のいろんな場面でいろんな自分の顔を使い分けている。

そう考えれば、とても普遍性のある話のように感じたと感想を伝えると、中村も「それは、僕も観終わったあとに思ったことです」と頷いて、こんなふうに自分の内面を語ってくれた。

「今まで生きてきて、いろんな場面で出てくる、ちょっとした自分の違いってあるじゃないですか。

それに、後悔したり、戸惑ったり、なんなのこれって悩んだり、時にはその違いを利用してみたり。

特に若い頃なんかは、自分の中にいるいろんな自分に振り回されたこともあったけど、今となってはまあそれもしょうがねえなと思っています」

表に立つ人間は、いろんな面を勝手に切り取られ、自由に編集・加工される。中村倫也にしても「カメレオン俳優」「ゆるふわ」など様々な言葉で語られることが多い。

「昔は自分の見られ方を気にしていた時期もあったけど、経験とともに、年とともに、どうでもよくなってきたというか。今はもう中村倫也というものを使って、自由に遊んでもらっていいみたいな感覚です。

どんなイメージでも、どんな評価でも、どんな楽しみ方でもいい。アンチでもなんでもいいので、ご自由にという感じです(笑)」

そう飄々と言葉を紡いでいく。世間のイメージを逆手にとって、じゃあ今度はこんなボールを投げてみようという思惑も今はないという。

「なんて言うんだろう、そういう“新商品”みたいな感じはないです(笑)。サービスを与えるという点で自分は供給側。なら、世間の需要よりずっと先に行っていなくちゃいけない。

それこそ、今、世間に浸透しているのかもしれない自分のイメージも、僕にとってはだいぶ前に自分の中でイメージしていたもので、体感としてはすごい時差があるんです。

そういう意味でも、今の世間の反応を見て、新しい戦略を立てているのでは遅い。僕の感覚やビジョンはそれよりずっと先に行ってなきゃいけないと考えているんです」

中村倫也 撮影/高橋那月

いい作品さえつくることができたら、あとの物事はどうでもいい


『凪のお暇』(TBS系)で見せた“メンヘラ製造機”。『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)の元ヤン教師。あるいは、『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)のモラハラ夫や、大和ハウス工業のCMでおなじみの気弱な夫。

役ごとに常に違う顔を見せてきた中村倫也にとって、1人7役は本領発揮の檜舞台。その演じ分けについて様々なメディアが取り上げることだろう。だが、「演じ分けがミソの作品ではない」と本人はいたって淡々としている。

「もちろん褒められたり話題にしてもらえることはありがたいし、うれしいことです。でも、ドライな聞こえ方になるかもしれないけど、そういう仕事なので。うれしいですけどね。なんて言うんだろうな。それが取り沙汰されているようでは俳優としてまだまだだなと」

突きつめたいのは、もっとその先にあるものなのだろうか。そう質問を重ねると、あっけらかんとこう答えた。

「どうなんですかね。だんだんわからなくなってきましたね、これだけ長いことやっていると。たぶんそれはどの仕事をしている方もみなさんそうだと思うんですけど」

現在33歳。俳優デビューから15年目を迎えた。がむしゃらで貪欲な若手の季節を過ぎ、中堅として余分な思考の脂肪を削ぎ落としつつある。

「若い頃に持っていた変な欲とか野心とかがなくなってくるんですよね。まあ、ひとつ言えるのは、いい作品がつくれて、観てくれた人が何らかしら満足をしてもらえるようなものになることが、今も昔も変わらない、僕にとっての大きな指針。

それさえ守ることができれば、あとの物事はどうでもいいというか。年々、シンプルになってきた気がします」