撮影:宮川舞子
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PARCO劇場オープニング・シリーズ秋の陣第一弾、『ゲルニカ』が9月27日(日)まで上演されている。

1936年、スペイン・バスク地方のゲルニカ。この地で起こった内戦による大規模無差別爆撃の惨劇を、画家パブロ・ピカソが描き残した絵画はあまりにも有名だ。

演出家・栗山民也がその絵に出会って衝撃を受け、20年以上も灯し続けてきた創作の火を、劇作家・長田育恵にテーマとして投げたことを発端に、両者の初タッグによる激動の群像劇が誕生した。

眼前に広がる深紅の緞帳が、不穏な雰囲気を醸して早くも胸騒ぎを誘う。その緞帳が静かに上がり、ドラマは動き出した。ゲルニカの元領主の娘として裕福に育ったサラ(上白石萌歌)の婚礼の日、クーデターが起こり、旧体制派と新体制派の激突によるスペイン内戦が始まる。

婚礼は中止となり、旧体制派であるサラの婚約者テオ(松島庄汰)は戦線に向かう。サラは旧体制時の権力に固執して差別意識を剥き出しにする母マリア(キムラ緑子)と決別し、かつて屋敷の料理人だったイシドロ(谷川昭一朗)の食堂に身を寄せる。

そこで、大学を辞めて人民戦線に加わる予定だという青年イグナシオ(中山優馬)と出会い、恋に落ちてゆく。

撮影:宮川舞子

すべての登場人物に託された、今を生きる我々に刺さる言葉

史実をベースにしながらも単なる歴史劇ではない、現代につながる幾多の問題を呼び起こす舞台であり、サラという女性の意識変化を軸に、名もなき市民たちそれぞれの多様な思惑、生きざまを丁寧に紡ぎ出した人間ドラマである。

外国特派員として内戦のありさまを、主観を交えて劇的に伝えようとするクリフ(勝地涼)と記録に徹して正確に伝えるべきと考えるレイチェル(早霧せいな)。

宗教という権力を盾に狡猾に動く神父パストール(谷田歩)。サラとの因縁を秘して悲劇をたどる女中ルイサ(石村みか)。

郵便局で働くごく普通の市民から兵士となったホセ(林田一高)、バスク民族の独立運動に参加する市民のハビエル(玉置玲央)やアントニオ(後藤剛範)。

長田はすべての登場人物に、力強く脈打つ血を与え、今を生きる我々に刺さる言葉を託している。惨劇に襲われたバスクの人々の物語に留めず、その事実を目撃し、世界に伝える役目を負ったクリフとレイチェルの存在を置いた点が要で、長田が作劇にあたって最初に提案したキャラクターだと聞いている。

二人の対立に見る報道の在り方への問いはもとより、「書き残すことの責任と恐怖」をレイチェルに語らせる場面が出色だ。

「何を選んで、何を刻みつけるのか。私たちが刻んだ言葉が、未来の礎になる」「私たちは、嘘さえも事実に塗り替える、恐ろしい力を持っているから」。劇作家・長田育恵の言葉に対する誠実、覚悟が込められているようにも受け取れた。