(左)仲野太賀 (右)松坂桃李 撮影/木村直軌

2021年2月19日に全国公開された『あの頃。』(監督/今泉力哉)は、漫画家であり、音楽プロデューサーであり、ベーシストである劒樹人(つるぎ・みきと)さんの、自伝コミックエッセイが原作だ。

目的もなく鬱々とした日々を送っていたツルギ青年が、ひょんなことからハロープロジェクトに出会い、仲間と共にディープなハロヲタ活動を繰り広げる。遅く来た青春を夢中で楽しむ彼らの時は永遠のようで、実はアイドルの寿命と同じくらい儚く、次第にそれぞれの未来に歩いていくようになる……。

鑑賞後はきっと多くの人が、懐かしさと可笑しみと、少しの胸の痛みを感じるこの映画。主演の松坂桃李さんと、仲野太賀さんに、作品の魅力や撮影エピソードについてお話を伺った。

オタク仲間は「ありのままの自分でいられる場所」

(左)仲野太賀 (右)松坂桃李 撮影/木村直軌

――原作を読んだときの、率直な感想を教えてください。

松坂桃李さん(以下、松坂) 今はたくさんの人が、アイドルオタクに対して免疫があります。たくさんのアイドルの方がいらっしゃいますから。でもこの映画の時代、2000年代初頭当時はそれほどでもなかったから、アイドルオタクとそうじゃない人は、すごく遠かったんじゃないかと思います。

――確かに今はいろんなアイドルがいて、アイドルオタクには女の子もいますね。昔は「特殊な人」というイメージでしたけど。

松坂 そんな時代にも関わらず、好きなものを仲間と共有できた彼らには、少しの共感と羨ましさを持ちました。自分の中で元気をもらえる場所、ありのままでいられる居場所があるのはいいですよね。

――鬱々としていた松坂さん演じるツルギ青年が、ハロプロに夢中になることで元気になり、仲間を作り、行動していく様は、すごい勢いでした。それにしても、普段はファンから夢中になられる側ですが、逆の立場を演じることへの特別な難しさはありましたか?

松坂 僕自身もBUMP OF CHICKENのファンなので、そういう好きなことに対する気持ちや、向かい方っていうことに、共感する部分は多々ありました。だから「こういう役なのか」という抵抗みたいなものは感じなかったですね。

松坂桃李 撮影/木村直軌

――確かに、ファンを持つ身の芸能人の方でも、誰かのファンであるのは自然です。

松坂 それにアイドルと役者って微妙に畑が違うんですよ。アイドルはファンの方々に応援してもらって、イベントやライブで応えるという形が取れます。でも我々はファンの方々に、直接お会いする機会が極端に少ないんです。

――そうなると、却って客観的に演じられそうですね。それにしても、俳優さんはカッコよくあることが基本のお仕事だと思うのですが、こんなにどうしようもないなあと思わせる登場人物たちを、魅力的に演じられた秘密を教えてください。

松坂 実際のご本人が魅力的だからというのが、大きいと思います。特に太賀が演じた、ツルギ青年の仲間の1人であるコズミンは、周りの方に話を聞くとすごい悪口ばかり出てくるんですけど、その悪口を言っている顔が皆さん本当に楽しそうで。

――「あいつ酷いよな」って笑いながら言う感じ、想像つきます。

松坂 本気120%みたいな悪口じゃなくて、愛情とかイジリが混ざった悪口なんですよね。そこにコズミンの魅力がギュッと詰まっている、みたいな。いつまでたっても話題に事欠かない人なんです。

仲野太賀 撮影/木村直軌

――仲野さん、本当に熱演でした。

仲野太賀さん(以下、仲野) コズミンはどうあがいても良いヤツになりえないというか……器が小さいし、面倒くさいし、口も悪い。けれども、どこか憎み切れない人です。その謎はどこにあるんだろうと考えながら、彼を演じました。

――めちゃくちゃな人なのに、最後は悔しいけどちょっと好きになりました。

仲野 この映画は最終的にはヒューマンドラマですから、見た後にホロッとできることが前提としてあったんです。だからこそ自分も、芝居を振り切れました。

あと桃李くんが言ったように、とにかく周りが「結局、コズミンって面白いヤツだな」って愛情を注いでいるから、愛おしいキャラになれたんじゃないかな。