PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』 撮影:加藤幸広
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PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』が3月7日まで上演されている。

『藪原検校』といえば井上ひさしの初期代表作のひとつ。

1973年、旧PARCO劇場(当時は西武劇場)誕生時に、そのオープニング記念として上演された、この劇場にゆかりの深い作品だ。稀代の悪党、杉の市の一代記。井上は実際の歴史上のできごとや人物のはざまに、この杉の市という盲目の男を作り出した。

名だたる演出家によって上演されてきたこの演目を今回手掛けるのは杉原邦生。

初演時には生まれてもいない30代の俊英は、スーパー歌舞伎II『新版オグリ』演出、歌舞伎座八月納涼歌舞伎『東海道中膝栗毛』構成、『グリークス』演出など、幅広く活躍している。主演の市川猿之助とは学生時代に出会って以来20年あまり、ことあるごとに作品をともにしている仲だ。

PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』 撮影:加藤幸広

江戸時代の話のはずなのに、舞台にはグラフィティの描かれたコンクリートの街並みに、黄色と黒のトラロープが張り巡らされた空間が立ち上がっている。

「舞台上に紐をめぐらせる」のは井上自身が演出した頃から用いられている演出だが、それがトラロープになったことで現代らしさが増し、駅から歩いてきた道と舞台とが地続きのような感覚に襲われる。

演出の杉原がギリシャ悲劇から歌舞伎の演目まであらゆる作品を、さまざまな時代と国を超越して「今、ここで起きていること」にする手腕を、今回も早速見せつけられる。

PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』 撮影:加藤幸広

按摩の盲太夫(川平慈英)の語りによって、観客は藪原検校の世界へと導かれる。

七兵衛(三宅健)とその女房(宮地雅子)の間に生まれ落ちた杉の市。父は出産費用をまかなうために座頭を殺しその金を盗んだ。杉の市は生まれ落ちる瞬間から業を背負っているのだ。

トラロープで囲まれた空間で繰り広げられる杉の市の生い立ち。益田トッシュの音楽にのせてポップでテンポよく綴られる物語に、自然に入り込んでゆく。

なかでも前半、杉の市が浄瑠璃、能、義太夫などを滔々と紡いでみせる「早物語」の場面は圧巻の一言。猿之助の技術にサービス精神をたっぷりとのせた見事な時間だった。

やがて杉の市は言い争いをきっかけに人殺しをしてしまい、あっという間に転落していく。最初の殺しも理不尽な言いがかりがきっかけ、その後の母殺しも過ち。決して生まれ持っての悪人ではない。ただ母との約束のため、検校になるためにしかたなく金ありきの悪の道へと向かわざるを得なくなる杉の市の悲哀。