鈴木聡 (撮影:西村康) 鈴木聡 (撮影:西村康)

市井の人々の情けなくも愛おしい姿を、コメディタッチで描き出す劇団「ラッパ屋」。その新作『おじクロ』が、11月8日(木)、東京・紀伊國屋ホールにて開幕する。そこで主宰であり、作・演出を手がける鈴木聡に、本作の構想を訊いた。

ラッパ屋チケット情報

今人気沸騰中の5人組アイドル「ももいろクローバーZ(以下ももクロ)」。今年53歳を迎えたベテラン演劇人・鈴木が、自分でも驚くほどこのももクロにハマっている。というのも、これまでまったくアイドルに縁がなかった鈴木。最初はインターネット動画で見たファンの盛り上がりに、“職業柄”興味を抱いただけだった。「ライブDVDを見たら、もう号泣(笑)。同じエンタテインメントを作る人間として、まずそのパフォーマンスに芸能としての力を感じたんです。そしてやっぱり彼女たちの笑顔。あれは絶対に作った笑顔じゃないし、全力でステージを楽しんでいる。その“全力感”に惹かれたんです」。

ももクロのステージに心揺さぶられた鈴木。彼はそこから、ある重要なメッセージを受け取ったと言う。「要するに自分は、こんなに全力で楽しめているかってことですよね。すべてが自分に返ってくる。そして僕の創作の出発点になっているのが、“今自分は何を感じているのか”ということ。だから今、これほどももクロに心動かされていることを、作品として残すべきだと思ったんです」。

昨年の本公演『ハズバンズ&ワイブズ』では、震災直後の夫婦たちの物語を描いた。「やっぱり去年は、地震のこと以外考えられなかったですからね。逆に言うと、その次が難しい。で、そんなときに出会ったのがももクロ(笑)。人を明るくする、勇気づけるももクロのパフォーマンスに、『あぁ、これだよな』と。ももクロに背中を押してもらったというか、感謝の気持ちでいっぱいですね」。

ももクロをテーマにしつつ、やはりそこはラッパ屋。「僕が描きたいのはアイドルオタクではなく、むしろ日常で生きることに難しさを感じている人たち。だからももクロ自体の話ではなく、ももクロにハマったオヤジたちの芝居にしようと。とうぜん最初は拒絶する人もいます。でも最終的には、5人で踊ってしまおうかと(笑)」。

ももクロといえば、百田夏菜子が見せる“エビ反りジャンプ”が大きな見どころ。「それはラッパ屋でも?」と尋ねると、鈴木は「気持ちはね」と笑う。オヤジたちが見せる“全力感”にも、きっと多くの観客の心を動かす何かがあるはずだ。

公演は11月8日(木)から 18日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、11月23日(金・祝)に福岡・北九州芸術劇場 中劇場にて上演される。チケットは発売中。

取材・文:野上瑠美子