ベッド&メイキングス『未遂の犯罪王』 ベッド&メイキングス『未遂の犯罪王』

劇作家の福原充則と俳優の富岡晃一郎が結成した劇団、ベッド&メイキングス。彼らの第2作目となる公演『未遂の犯罪王』が11月10日、すみだパークスタジオ倉にて開幕。開幕直前の10日昼に行われたゲネプロに潜入した。

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見上げればそこにスカイツリーがそびえ立つ、墨田区の会場。まさに倉庫のような建物に入ると、土けむりの立ちそうなセットが座席ぎりぎりまで建て込まれている。ステージ奥にはひなびた食堂らしきテーブルと丸椅子。幕が開くと、どうやらサウナらしい。男性3人が腰にタオルを巻いただけの姿で座っているだけで、会場の湿度がぐっと上がったように錯覚する。そこにいきなりの闖入者。微妙に話の通じない「弟」(富岡)によれば、彼は兄を探しているという。回想の中の兄は、雨に降られながら思いがけない場所から登場し、さっそく観客はこの会場が選ばれた意味を感じることとなる。

山梨のさびれたドライブインに毎日集い、町おこしに期待をかけながらも怠惰に過ごす人々の日常と、ウエスタン村で1日8回銀行強盗ショーを行っていた兄の企み。ふたつの道筋が重なりそうで重ならず、並行して紡がれる。物語前半ではつねに傍観者の立場だったドライブインの店主(山本亨)が、店の2階で商売をする売春婦・麻子(野口かおる)とすさまじいぶつかり合いを演じ、突如物語の中心ににじり寄ってくる展開には驚きを禁じ得ない。麻子の語る「相手のことを想像しなくてははじまらない。10年先が想像できたふたりが結婚し、死ぬまでが想像できたらそれは永遠」という言葉の意味はその後も重くのしかかってくる。ウエスタンショーに出ていたはずの甲冑姿の「武田くん」は実はその後のさらなる展開のキーパーソンとなり、彼もまた「想像しろ」と繰り返し訴えかけてくる。そして弟は兄に「想像を行動に移せ」とけしかける――。

福原が「この劇団では、『あの役者がよかったな』と思えるような作品をつくりたい」と語っていたとおり、終わってみれば個々の役者の力が光って見える公演だ。何も変わらない日常がそのまま続いていくように見えて、一人ひとりがそれぞれのキャラクターらしいやり方で、ほんの少しだけ前に進む。希望を見出す。観客は後半、冗談のように立て続けに起こる驚きの展開を通して、ベッド&メイキングスの標榜するテーマ「サルでもわかる哲学」を身体に刻み込むことだろう。

公演は11月18日(日)まで。チケット発売中。

取材・文/釣木文恵