マリインスキー・バレエ『ラ・バヤデール』 (c)瀬戸秀美 マリインスキー・バレエ『ラ・バヤデール』 (c)瀬戸秀美

マリインスキー・バレエが3年ぶりに来日した。開幕のプログラムはグランド・バレエの傑作『ラ・バヤデール』で、ロシアの名花ウリヤーナ・ロパートキナが初日を飾った。11月15日、東京・文京シビックホールにて。

マリインスキー・バレエ 来日公演情報

インドを舞台としたこの作品は、エキゾチックで民族的な振付けが印象的だが、クラシック・バレエのテクニックも駆使されており、登場人物たちの織りなす複雑な恋愛模様のドラマが、劇的な踊りによって展開する。マリインスキー・バレエが日本で「ラ・バヤデール」の全幕公演を行ったのは、2000年の来日公演以来で、『白鳥の湖』以外にロパートキナで観たい役のトップにあがるのが、この神に仕える舞姫ニキヤである。恋人の戦士ソロルには、長年ロパートキナの相手役を務めるダニーラ・コルスンツェフ。穏やかな印象のコルスンツェフだが、ふたりの女性の間で壮絶な葛藤をする苦悩の表情や、空気を切り裂くようなダイナミックなジャンプを魅せて、ダンサーなら誰でも憧れるソロルという役への強い愛情が伺えた。ニキヤの恋敵となる藩主の娘ガムザッティには、エカテリーナ・コンダウーロワが配され、大スターであるロパートキナと、カンパニーの次世代を担う美しいコンダウーロワとの共演に観客の心が踊らないはずがない。

ラ・バヤデールには様々なバージョンが存在するが、ロシアのバレエ団や、パリ・オペラ座バレエで踊られる第2幕の勇壮な太鼓の踊りは、観客の大きな喝采を浴びていた。また、ニキヤがガムザッティの奸計により、花籠に仕込まれた毒蛇によって命を落とす場面は、バレリーナが表現力を結集した見せ所だ。彼に贈られた愛情の花籠と信じて嬉々として踊るが、絶望と悲しみの表情を張り付けたまま、息絶えるロパートキナの姿は圧巻。舞台を観るたびにその完成度に驚かされるが、彼女は未だに進化しており、役へのアプローチが更に深みを増していた。

第3幕の「影の王国」は、バレエブラン(白のバレエ)の傑作といわれ、この場面だけを取り上げて、ガラコンサートなどで上演される機会が多い。ニキヤを失った悲しみに自室で打ちひしがれているソロルが眠りに陥り、夢の中でニキヤの霊に出会うのだが、紗幕が降りていつしか風景が静かな靄に包まれ、精霊たちがゆっくりと山の頂から降りてくる。真っ白い群舞が彩るフォーメーションの美しさに惹かれて、この後も劇場に足を運ぶ日々が続くだろう。マリインスキー・バレエは『ラ・バヤデール』、『白鳥の湖』、『アンナ・カレーニナ』の3演目と、ガラ公演にて2012年12月2日(日)まで来日公演中。

取材・文:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)