ジャン・レノ

パリ有数の超高級三ツ星フレンチレストランを舞台に、問題だらけの寄せ集めシェフたちが団結して奇跡を起こそうとする姿を描く『シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜』。本作でスランプ気味のベテランシェフを演じたジャン・レノが来日、話を聞いた。

その他の画像

ジャン演じるアレクサンドルは、超高級レストラン“カルゴ・ラガルド”の天才シェフ。ところが、スランプで新作が生み出せず、来たる審査会で星をひとつでも失えば店の運命はジ・エンド! 背水の陣の彼は、腕はあるが生意気な若造シェフのジャッキー(ミカエル・ユーン)と組み、起死回生を図るストーリーだ。「アレクサンドルとジャッキーの関係は、まるで父と子のようだった」と感想を語るジャン。当初のシナリオでは想定外だったが、「僕とミカエルで“味付け”を変えた(笑)」そうで、「ジャッキーが求婚するシーンでアレクサンドルが指輪を渡すけれど、僕のアイデアだよ。“この指輪を使え”って、父と子の関係に似ているよね。いい効果が出た。ミカエルと僕の錬金術だよ(笑)」と満足げに回想する。

血の滲むほどの努力を重ね、完成した料理だけが評価の対象になるシェフの世界。「他人の評価を気にする点では、料理人も俳優も似ているね」と本作に出演して、自身との共通項を見出したというジャン。「重圧の中での仕事で、アレクサンドルのように家族との時間をすべて犠牲にする料理人の世界は、実に厳しい。それは俳優でも同じことだよ」と目を細めるが、ジャンのように第一線で輝く秘訣は「自分を見失わないこと」が重要だと続けた。「かつてフランスのシャルル・ド・ゴール大統領は“上に行けば行くほど風が強い”と言ったが、同感だよ。お世辞に耳を貸さず、批判的なものも読まない。そう心がけているよ」。

問題だらけの寄せ集めシェフたちが奮闘する本作を観て改めて思うことは、料理の世界は人生の皮肉や悲哀、歓喜や希望を描くモチーフとして最適だということだ。ジャンも「この種の映画は、多様性があるよね」と持論で同調する。「僕は人生で同じことを繰り返すことをしなかったが、それは料理のように多様性をキープしているからだよ。今まで映画で刑事やスパイを演じたけれど、そのどれもが違う存在だった。僕は、一色には染まらない。それこそが僕が俳優業を楽しめた理由で、この映画を心底満喫した最大の理由でもあるよ」。

『シェフ! 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜』

取材・文:鴇田 崇